かせきさいだぁ
作詞家/ラッパー/ヒネモシスト/漫画家
誰にも頼まれずに執筆を続ける脱力系4コマ漫画「ハグトン」。
ハグトンの好物はカフェラテ(最近はソイラテ)だそう。

古墳ころがし

2011.03.08
第3回「千葉県・芝山はにわ祭り」後編

人心荒ぶる今の世に、皆で力を合わせて大地を切り開き、国の礎を造った、古き良き大和の心を子々孫々に伝えようと、舞い降りた古代人の祭り。祭りの最初に告げられた古代人リーダー(国造)によるご託宣、「今、人、科学技術に眼を奪われて、太陽と大地の広大な恩恵を忘れ、物質文明の繁栄に酔いしれて、人間の霊性を捨て去らんと、人間喪失の危機ここに極まると言うべし」というメッセージは、成田空港建設をめぐって、激しく対立した芝山町の歴史を暗示するものであった。

「そうそう、知り合いの芸人で、成田闘争のバイトしてた奴いましたよ。当日、空港でプラカードとヘルメット渡されて、前金で2万円貰うんだって。なんで前金なのかと質問したらパクられたら払えないからだって。捕まらないように逃げてくださいね!って言われたって」 『古墳はにわ博物館』内のベンチに腰掛けて、ウクレレをポロリポロリ弾きながら、いまだ影を引きずる闘争に思いを馳せる過激派芸人。 「なぜ国と闘うのか。そこに古墳があるからか。ノー・モア・ナリタ、ウイ・アー・ザ・ワールド」

「グウ…」私の腹時計が鳴った。
古代人ОBに案内されて入った町立の『古墳はにわ博物館』は、寺所有の『はにわ博物館』の見事な巨大埴輪の数々とは違い、ほとんどがレプリカで、ポップなキャラクター漫画による解説や、古代人の衣装を着たり、勾玉を作る体験コーナーなど、子供向けの展示が多かった。お目当ての試食コーナー、古代人が食べていたチーズ「蘇」は、すでになくなっていた。
「ノー・モア・チーズ」
思わず漏らす、ウクレレさんであった。
「グゥ~」
ワンモア・ハングリー。昼ご飯のお店を探す。
「あ、ゾノさん、はにわそばだって!埴輪の絵の蒲鉾とか入ってて、器も埴輪で出来てたりして」
興奮気味のウクレレさん。
が……。芝山町のサークルのメンバーが打った、ごく普通のざるそばであった。
はにわそば(400円)を食した後、博物館の駐車場でひっそり開催されていたギネス大会を冷やかす。将棋の駒をタテに何枚乗せられるかを競う「将棋積み」、箸ワザを競う「小豆運び」、「輪ゴム通し」「フリースローバスケ」「ザ・ウェイト」など、バラエティに富んだ種目が開催されている。
「突撃三銃士って何だろう?」
ウクレレさんの目がキラリと光った。
「あ、ダーツだ!ダーツ自信ありますよ」
エントリーするウクレレさん。登録欄に「竹内栄二」(本名)を記入し、ダーツを三本もらう。三本×5セットの点数を競うゲームだ。
「ゾノさん、マジでギネス狙いますよ」
しかし、次々と的を外し、汗だくになるウクレレさん。審判の子供たちに、「あきらめないで、頑張ってください!」と励まされ、何とか投げ終える。
「竹内さん、合計得点8点です」

すぐにその場を立ち去り、公園に戻ると、メイン広場では、来賓の挨拶が始まっていた。まずは、千葉県議会議員の伊藤さんから。
「ただいま、ご紹介にあずかりました、地元の伊藤です。遠い神代の昔から、天の岩戸を開いて大勢の古代人の皆さまがいらっしゃって、今の日本の国情、政治経済はどうなっているのか、ご視察いただき……」 
いかにもスピーチ慣れした伊藤さんに続き、今度は、成田国際空港株式会社専務の伊藤さん。
「毎年毎年、こちらへ来ると、1500年前の古代人の皆さまからお叱りを受けております……。芝山町には空港があることで、たいへんなご迷惑をかけておりますが、1500年後の未来の人々のために、ぜひ大きな考えでやっていきたいなと、え~、どうもありがとうございました」
うまく整っているのかどうか。古代人をからめて、強引にこじつけた挨拶に、ウクレレさんが珍しく真剣な顔でつぶやいた。
「二人とも伊藤って」

広場では、ディズニーランド入場券やマウンテンバイク、カップ麺が当たるウルトラクイズが始まった。
「パンチパーマのような大仏のヘアスタイル、ぐるぐる巻いた髪の数は、鎌倉の大仏も奈良の大仏も同じ数である、○か×か、自分を信じて選んでくださいね~~」
タイカレー、シシカバブ、まな板、やかん各2千円等のいろんな屋台、やぎと触れ合うミニ動物園で、なおも時間をつぶしていると、急に人混みが激しくなってきた。皆、手にビニール袋を持っている。これから、この祭りのメインイベント、大モチ投げ大会が行われるという。

<古代人の皆さま、現代を満喫されていることと思いますが、まもなく、式典のお時間です。お集まりください>とのアナウンスがあり、祭りを楽しんでいた子ども古代人たちも、ステージ脇の高台に整列する。 千葉県のマスコット、チーバ君とシーバ君が待つステージに、県知事の森田健作が登場。芝山町に家を建てたことがあるという、ごく簡単なスピーチの後、広場にトラック3台が止まり、餅・ポテトチップスがばらまかれる。もみくちゃの人々を尻目に、この時ばかりはと無駄な長身を生かして、次々と餅をゲットするも、すぐ隣で空のビニール袋を持って、私をじっと見つめる老婆に、泣く泣く譲る羽目に。
ウクレレさんは一つも取れなかったみたいだ。

餅投げが終わると、詰めかけていた人々は、さっと、いっせいにいなくなり、人もまばらな中、いよいよクライマックスへ。
「それでは、これより昇天の儀を行います」
町の消防団長が高らかに宣言する。かがり火が焚かれ、神主が元の時代へ帰る古代人の道中の無事を祈る。そして、古代人リーダー(国造)からの最後の託宣が述べられる。
「今日一日、現代人の方々の温かいもてなしを受け、われわれ古代人はとても幸せです。毎年来てくれる方、新しく友人になってくれた方……、とても幸せです。……平和を願うばかりです……」
厳粛な空気の中、ゆっくりとした間合いで語りかける国造の言葉を、上空を飛ぶジャンボ機の騒音が頻繁にさえぎる。
「あ~お~う~え~い~、か~こ~く~け~き~、さ~そ~す~……」
シュールな光景に驚きを隠せないウクレレさん。
「ちょ、ちょっと。あおうえい~って。これ、何なんですか?」
「……ら~ろ~る~れ~り~、わ~を~…」
「古代人ジョークですか?」
「私たち、古代人はこれから昇天します。今日のこの良き日のことは、天空の神々にもお伝えします。来年の11月までお元気で。ありがとう。さようなら」
パラパラとした拍手の中、インカムをつけた係員が慌てて、「荒井さん、荒井さん」と呼びかけると、国造は、大きく手を振り、もう一度、「ありがとう、さようなら」と叫んだ。
さっきよりは、大きな拍手が起こり、古代人たちは、ようやく帰って行った。
広場から帰る途中、またもや出くわした古代人ОBに尋ねると、古代人リーダー(国造)は、毎年この祭りのために呼ばれている役者さんで、「あ~お~う~え~い~」のくだりは、彼が考えだした台詞だという。

 

後でネットで調べてみると、その荒井さんは、麿赤児の大駱駝艦出身で、映画や舞台での活躍の傍ら、「コトタマ平和学」の研究・実践にも情熱を注いでいると紹介されていた。節分の時には、横浜のお寺で、鬼の仕事もこなしているとか。
『はにわ祭り』、恐るべし。

(終わり)

プロフィール

ウクレレえいじ
ウクレレ芸人。
1月18日三重県生。
みうらじゅん氏に世界でただ一人の『人間僕宝』に認定されたウクレレ芸人。

ウクレレの弾き語りで、「マニアックでごめんネ!」のフレーズで、B級映画のワンシーンや、高倉健、ケーシー高峰などのマニアックなものまねを99連発する芸は圧巻。
99曲入り1stソロCDアルバム『ウクレレ番外地』(ビクターエンターテインメント)、健さん(ウクレレえいじ)が不器用解消のためにウクレレを習うウクレレ教則DVD『笑ってマスター!ウクレレえいじのもっと楽しいウクレレ』(リットーミュージック)も好評発売中。
また、ウクレレ奏者としても定評があり、サザンオールスターズ関口和之氏、CHAGE氏(チャゲ&飛鳥)らとレコーディングやライブなどで共演している。


ゾノネム
フケ専ラッパー。
代表曲に「早漏2005」「夢~ドリーム~」「虹」。
『ザンジバルナイト in 野音』にてグレートOと3年連続オープニングアクトを務める。
カラオケの十八番は安室奈美恵の「Chase the Chance」(ただし、100回以上歌っているが、いまだに2番のラップが苦手)。
好物はナン(カレー少なめ)。