かせきさいだぁ
作詞家/ラッパー/ヒネモシスト/漫画家
誰にも頼まれずに執筆を続ける脱力系4コマ漫画「ハグトン」。
ハグトンの好物はカフェラテ(最近はソイラテ)だそう。

古墳ころがし

2010.10.19
第2回 「山梨県甲府市・甲斐風土記の丘」前編

モアイ像前で、街頭アンケートのおばさん3人組に、ウクレレさんが捕まっていた。
「米軍基地はいると思いますけど、いらないと思います。いや、だから、あの〜、反対というか、その〜、反対みたいな」
ピックアップし、車に乗り込む。
「いや〜、朝から激論しちゃいましたよ、田原総一郎ばりに」
おばさんたちにかなり押しまくられていたようだったが…。

「そんなことより、ゾノさん、見ました?」
早速話題は、斉明天皇陵のニュースのことに。
「古墳が新聞の一面になるとは、スゴイですね」
私も、キオスクで見出しを目にして、いつもは(何か仕事をしている風を装うために)空打ちしている職場のパソコンで、記事をチェックしていた。
古墳のメッカ・奈良県明日香村にある牽牛塚(けんごしづか)古墳が、天皇家特有の八角墳であることがわかり、これにより、7世紀後半に亡くなった女帝・斉明天皇が埋葬されている可能性がほぼ確実になったらしい。
「斉明天皇は、中大兄皇子のお母さんですよ。中大兄皇子といえば、大化の改新、虫殺し(645年)。あれ、蒸して殺したんでしたっけ…」
「古墳時代も後半になると、地方の豪族に前方後円墳造るのをやめさせて、天皇家が‘天下八方を支配する'という意味の八角墳を作るんですよ」
「さすが、ウクレレさん」
「八角は8の字、いやハチの巣の形?」
「八角形だと思いますが…」
仕入れたばかりのあやふやな古墳知識を披露しあっているうちに、車はガラガラの中央自動車道を突っ走り、あっという間に山梨県に。
ウクレレさんは、恒例の古墳ソングを作り始める。
♪山があるのに 山梨〜 山があるのに 山梨〜
前回の「レンホーの歌」より、これではネタが弱いと思ったのか、すぐに弾き直す。
♪フ ドキッ 風土記ッ フ ドキッ 風土記ッ 君は古墳小町!
なぜか山下久美子の替え歌に。
♪あ〜 山梨は〜 今日も〜 晴れだった〜
今度はクールファイブだが、続かなかったのか、
♪恋はアツアツ 亜熱帯ッ! 君は赤道小町!!
結局、山下久美子に戻り、オリジナルの歌詞を気持ちよさそうに歌っていた。

笛吹(ふえふき)川を渡って間もなく、「甲斐風土記の丘」に到着。
しかし、巨大古墳がいくつも集まる、あまりに広大な公園のため、どこに車を止めてよいか分からない。
「車どこかにトメダイン?」
車に乗ったまま、うろうろしていると、近くにYLO会館という建物が見えてきた。
「YLO会館? YLOって何の略だろう」
ウクレレさんが頭を捻り出した。
「YLO、山梨、ロンリー、オーケストラ。違うな。YLO、ヤギ、ライオン、オーケストラ」

会館の職員さんが、古墳群に一番近い駐車場を教えてくれた。ちなみにYLOは、「Young(若者)、 Lady(女性)、 Old(お年寄り)、誰でも入れる公共温泉施設」という意味らしい。
車を降りる前に、鞄から、茶色のレザージャケット(ユニクロで5千円で購入)と帽子(武蔵小山商店街で1500円で購入)を取り出す。

実は、前回の「古墳ころがし」の私の写真を見て、「あの大柄なおっさんは誰?」「なぜ、通りすがりの現地の人が、何枚もツーショットで写っているのか?」という質問メールが多数寄せられたそうで、「少しは様になるよう考古学者みたいな恰好をしてみては?」と、ウクレレさんからアドバイスをもらっていた。
「インディ・ジョーンズというよりも、妖怪人間ベムっぽいですが、まあイイでしょう」

園内に入り、手入れの行き届いた芝生の庭を歩く。途中の案内図には、「最大級」「最古」「最大規模」など、古墳をほめたたえる言葉が連発されていた。かんかん塚古墳(県内最古の馬具が出土)や杯塚など、小さな墳丘を眺めながら進み、木々を少し抜けると、まずは、丸山塚古墳が現れた。
県内最大の直径72m、周りに玉砂利がきれいに敷き詰められた円墳の前で、ツーショット撮影。

高さ10mの墳丘を登ると、周囲に木が植えられた墳頂の中央に、竪穴式石室跡があった。石室には、豪族の遺体が埋められていたとされるが、明治40年に発掘調査された時には、すでに棺ごとなくなっていたらしい。
「竪穴って、なぜタテなんですか? 人がタテに埋められてたってこと?」
「いや、ウクレレさん、上からタテに掘った穴だから…」
「上から? じゃあ、上穴じゃないですか」
「横からの穴が横穴だから、アレ…」
「竪穴(立川)談志」
冷たい麦茶で、ひと息入れる。麦茶がこんなに美味しく感じられるのも、天気の良い日の‘古墳ころがし'ならではの贅沢。

「ウクレレさん、日曜なのに、ほとんど人がいませんね〜」
明日香村の牽牛塚古墳には、3千人を超える古墳ファンが訪れているというのに、我々以外には、俳句仲間と思しき、数人の老人グループを見かけただけ。関東最大級の前方後円墳にしては、あまりに人気がない。
「ではわたくしも」
ウクレレさんも一句浮かんだようだ。
<分け入っても分け入っても古墳>
<前方後円墳でうれしい>
<どうしようもないわたしが古墳を歩いている>
ウクレレさんの好きな種田山頭火をパクった自由律俳句。マニアックで微妙…。

お目当ての銚子塚古墳は、すぐ隣にあった。

(つづきは、後編で)

プロフィール

ウクレレえいじ
ウクレレ芸人。
1月18日三重県生。
みうらじゅん氏に世界でただ一人の『人間僕宝』に認定されたウクレレ芸人。

ウクレレの弾き語りで、「マニアックでごめんネ!」のフレーズで、B級映画のワンシーンや、高倉健、ケーシー高峰などのマニアックなものまねを99連発する芸は圧巻。
99曲入り1stソロCDアルバム『ウクレレ番外地』(ビクターエンターテインメント)、健さん(ウクレレえいじ)が不器用解消のためにウクレレを習うウクレレ教則DVD『笑ってマスター!ウクレレえいじのもっと楽しいウクレレ』(リットーミュージック)も好評発売中。
また、ウクレレ奏者としても定評があり、サザンオールスターズ関口和之氏、CHAGE氏(チャゲ&飛鳥)らとレコーディングやライブなどで共演している。


ゾノネム
フケ専ラッパー。
代表曲に「早漏2005」「夢~ドリーム~」「虹」。
『ザンジバルナイト in 野音』にてグレートOと3年連続オープニングアクトを務める。
カラオケの十八番は安室奈美恵の「Chase the Chance」(ただし、100回以上歌っているが、いまだに2番のラップが苦手)。
好物はナン(カレー少なめ)。