かせきさいだぁ
作詞家/ラッパー/ヒネモシスト/漫画家
誰にも頼まれずに執筆を続ける脱力系4コマ漫画「ハグトン」。
ハグトンの好物はカフェラテ(最近はソイラテ)だそう。

ロックンロール文庫

2012.02.03
第5話


「お菓子んまーい!んまんまーーー」
「リリンが生み出した文化の極みだからなあ」
「へ?なんて?」

女子に用意されたその部屋には、マコとマコの合宿バンドメンバーの三人。夕焼けが窓に映るが、その部屋にはまだ明かりが灯されていない。

「サトケンさあ、いい加減構成覚えろよ!毎度毎度適当すぎ」

そう言ったのは、昼食時に怪訝の表情を見せていた眼鏡の男。このバンドのギターボーカルで、ポテチンと呼ばれている。由来は、安直にもポテトチップスが大好物であるから。

「だああって、昨日は録画してた『ま○か☆マギカ』観なきゃいけなかっかんだもーん」
「なんでわざわざアニメのビデオなんか持ってくるんだよ!お前さあ、アドリブでドラム叩くのやめろよ」
「えー、お前も一緒に見ようぜ!合宿中に貯蓄してたの消費しようと思って、全部持ってきたんだよ」
「俺はいいわ!」
「私アニメ全然見ないけど、ポテチンもそうなのかい?」
「いや、俺は目星付けてるアニメはリアルタイムで見ないと気が済まないんだよ」
「…ポテチンそうだったのか…俺が悪かった!俺も頑張ってリアルタイム心がけるよ!」
「そこじゃねーだろ!」

ポテチンがバシンと机を叩くと、机の上のポテトチップスが僅かに跳ねた。彼は小さく咳払いをして、その中から一番大きな一枚を口に入れた。すると、ガチャッと音が鳴り、ドアの隙間から廊下の人工的な蛍光灯の光が差し込んだ。スタジオの練習から帰ってきたペー子だ。難しい顔をしてドアを開け、三人の様子を見て更に難しい顔になる。

「……こんな暗い中で何やってるんですか」
「お!ペー子おかえりなしゃい!みんな、私の恋人が帰って来たよ。みんな勝手に部屋あげてじゃまじゃない?」
「あ、それは大丈夫です。むしろポテチン先輩居てくれて良かったです。私にギターを教えて下さい」
「ああ、全然いいよ」
「サトケン先輩は出て行って下さい」
「えっ!?俺だけ!!今日はみんなで怖い話大会しようと思ってたのに!」
「いいから出てけ」
「ポ、ポテチンまで…!!もういいよ!!地縛霊に祟られろバカ!!」

古典的にうわーんと叫びながら、ペー子の隣をすり抜けて走り去るサトケン。ペー子はそれを気にせず、靴を脱ぎ部屋の電気のスイッチをパチンと押した。廊下と同じ白い光が、一瞬何度か瞬いてから安定し、部屋中を照らした。

「ああ、でも。俺もそしたら一回楽器取りに部屋戻るかな」
「あ、いいよいいよ。そしたらこのマコ様が代わりに取りに行ったげよう。先にペー子ちゃんに教えたげてて」
「え、あ、本当?カバーには入れてないと思うけど、どれか分かる?」
「分かる分かる」
「わりぃ、頼むわ」

ふわふわと手を振り、ばたばたと出ていくマコ。

「…ポテチン先輩って、マコ先輩と仲良いですよね」

マコが出て行った半開きのドアを見つめながら、ペー子はポテチンに話しかける。

「そうか?」
「はい。実は、付き合ってたりしないんですか?」
「ぶっ!!まさか!!俺からしたら、お前らのが仲良いと思うけど」
「それは多分、女子二人だけだし…。マコ先輩って彼氏とか居ないんですかね」
「うーん、わかんないなー。直接聞けば?」
「えーー」
「あっ、でも!なんか今朝の俺たちのスタジオ終わった後、あいつの携帯が鳴って…」
「はい!」
「見たことない複雑な表情で携帯の画面だけ眺めて、結局出なかったんだよなあいつ。そん時の携帯の画面、俺からちらっと見えたんだけど、男の名前が表示されてた」
「へー」
「あの時のマコのなんとも言えない顔は多分…元彼だ、うん。完全そんな顔だったわ」
「ええ、本当ですかー?」
「マジマジ」

プロフィール

みさこ(神聖かまってちゃん)

インターネットの世界から突如現れ、2010年代の音楽シーンで最大の事件となったバンド「神聖かまってちゃん」のドラム担当。唯一メンバー募集で加入の女性メンバーでありながら、その空気の読めなさと腐女子属性をしてバンドに欠かせない存在に。

神聖かまってちゃんオフィシャルサイト

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