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レギュラーコラム 末井昭

[2007年12月14日]
vol.14 ピンクサロンの看板描き

 上野クインビーのマネージャーが転職した店は、池袋のロマンス通りの入口あにある、クラウンというピンクサロンでした。1階が店で地下が事務室になっていて、コンクリート剥き出しの倉庫みたいなところをベニヤで仕切って机を置いてるんです。そこで、この店の店長になった元上野クインビーのマネージャーと、クラウン・チェーン3店鋪を持つ社長に会ったんです。
 社長は岡山の出身で、「アンタも岡山か、あそこはええとこじゃ、ワシもいつか岡山へ店出そうと思うとるんじゃ」って、こっちが恥ずかしくなるくらい岡山弁丸出しの人で、同郷のよしみってこともあってすぐ信用してくれました。
 さっそく看板頼まれたんだけど、看板作る場所がないわけ。看板描くだけならアパートでやれるんですけど、ベニヤ買ってきて看板から作るわけですから。でも、それもアパートでやりました。近くの製材所から小割とベニヤを買ってきて、隣の人がいない昼間、6畳の部屋でトントントントン。出来上がった看板に白い紙を貼り、水性のネオカラーで絵と文字を描く。「クラウン娘が大ハッスル」とかね。その上からビニールかけてでき上がり。
 それを店が開く頃に池袋に届けるんだけど、車があるわけじゃないし免許もないから、電車で運ぶわけです。ムキ出しだと恥ずかしいから新聞紙をかけて。でも看板を新聞紙でくるむと、相当怪しい感じになりますね。それにラッシュの時間帯でしょ、みんなから嫌な顔されて。「こっちは生活かかってるんだ」みたいな気持ちでみんなを睨み返してたから、乗客から見たら相当恐かったんじゃないですか?
 その看板を店に持って行くと、店長が店の入口に立てる。自分の作品が展示されたみたいで、ちょっと嬉しかったですね。でも、そういうのもつかの間で、看板の仕事に追われるようになるんです。
 1枚作って3千円でしょ。ベニヤや小割の原価を引くと、儲けは2千円ぐらいなものですから、量産しないといけないし、注文も多かったんです。3千円で安いってこともあったんですけど、僕が描く看板は女の子の絵を入れてるんで評判がよかったからね。
 特に忙しいのがクリスマスの前。看板だけでなくて、店内に飾るパネルやらメニューなんかも頼まれるんです。クリスマスになると値段が倍になりますから。パネルは女の子が悶えているような絵を蛍光カラーで描くんだけど、ブラックライト使ってるから、絵が暗闇に浮かび上がってきれいなんです。これも評判がよかった。
 そのうち、僕が看板を電車で運んでくるのを見るに見かねたのか、社長が地下室を使ってもいいって言ってくれたんです。地下は事務室とホステスさんの更衣室があって、更衣室といってもロッカーと申し訳程度のカーテンがあるだけだったけど、その更衣室の前のスペースで看板描くことになったわけ。
 看板描いているとホステスさんが出勤してきて、カーテンの向こうでドレスに着替えて上の店に上がって行く。僕が看板描いているのを見て、「それ描いていくらになるの?」とか聞くホステスさんもいる。店長がホステスさんを連れてきて、「この子脱から」って言うから、脱いでもらって写真を撮る。その間、店長はポーズを付けるとか言って、裸の女の子に触りまくっている。その写真を看板に貼って、怪しい感じにする。店の地下室で看板描くようになってから、結構モヤモヤするようになったんです。
 一番のモヤモヤは店長の新人教育で、未経験の女の子が入ってくると、地下室で新人教育するんです。ソファーを置いて、店長と女の子が座って、店長がスカートの中に手を入れて。「そんなことできません」って女の子が泣き出したりして。そういうのを看板描いている横でやるわけですから、モヤモヤしてきますよ。
 仕事が終わって、夜の10時頃外に出ると、足が真直ぐ駅に向かわないんです。当時のロマンス通り周辺はかなり怪しい店が多くて、ヌードスタジオなんかもあったんです。怪しいライトが灯いていて、女の人が手招きしている。ヨロヨロっと入りそうになるんだけど、勇気がないというか、お金の心配もあって素通りする。
 ヌードスタジオって、だいぶあとになって1回だけ入ったことがある。お金を渡すと脱いでくれるんだけど、ここから先はまたお金ってことで、裸になるまでに随分お金がかかるんです。その先も当然あって、僕もその先まで行ったんですけど、オカマでした。
 でも、その頃はまだ純情というか、勇気がないというか、風俗街をウロウロ歩き回るだけだったんです。モヤモヤしていると革命的な気分になるのか、上の店でドンチャン騒ぎしているのを聞きながら、かじかんだ手で看板描いていると、「みんなぶっ壊れてしまえ」って気分になってました。
 店長は相当のスケベでしたね。新人教育だけでなくて、だいぶホステスさんに手を出してるようでした。俺のは真珠が入ってるって自慢していて、その真珠で女が付いてくると思っているようで、この店の女の子も自分が連れてきたって言ってました。
 その店長から「たまにはうちの店で遊んで行ったら? 安くしとくから」と言われて、ピンクサロン初体験です。クインビーのとき、忙しいときはフロア係(要するにボーイ)をやったことや、ショーの照明を手伝ったこともあるから、キャバレーの雰囲気は知っていたけど、全然違うわけ。店内は真っ暗で、ホステスさんのドレスと歯だけが浮かび上がっていて、異様でした。マネージャーがタンバリン叩いて、音楽に合わせて「チンコマンコ、チンコマンコ」と怒鳴っている。よく見ると、裸同然のホステスさんがお客の股間に顔をうずめている。僕はモヤモヤしてたけど、ホステスさんとは地下で顔を合わせていたから恥ずかしくて、何もしないで出ましたけど。
 その代わり、よそのピンクサロンに行くようになったんです。店長から「よその店を調査しに行こう」と誘われて、池袋だけでなく蒲田とかのピンクサロンにも行くようになって。まぁ調査と称して、店長が僕にお金を払わせて遊びに行きたかっただけなんだけど。
 そういうとき僕は大胆でした。席に案内されると、いきなりズボンを脱ぐ。なんかホンネを隠すっていうか、本当はチンチンをしごいてもらいたいのに、最初はどうでもいい世間話とかしちゃって、少しづつ触ったりしてっていうのがイヤなんです。どうせ抜いてもらいたいんだったら、いきなりズボンを脱ぐ。ホステスさんから「まぁ大胆ねぇ」とか言われて。大胆なことをしようっていう気はなかったんだけど、ピンクサロンを裏から見てるから、普通のお客さんになれないというか、スケベな客の芝居をしていたような気がしますね。
 ある日、社長が「店長を知らんじゃろか?」と言うんです。店長が行方不明になったみたいで。それから2、3日して、僕が看板描いているところに店長がヒョッコリ現れて、前の店に移ったと言うんです。クラウンの真ん前ですよ。すごいなぁと思いましたね。しかも、店の女の子を何人か引き抜いてですよ。
 それで、僕に看板描いてくれって言うんです。断りきれなかったのかお金に目がくらんだのか忘れたけど、社長に内緒で、前のキューピットという店の看板を描くようになったんです。最初はキューピットの店内で描いてたんだけど狭いから、社長が出てくる前にクラウンの地下で描いていたら社長に見付かって、「うちの店もそういうキレーなのを描いてもらえんじゃろか」とかイヤミを言われて。僕はもう開き直って、その後もそこでキューピットの看板描いていました。
 そのうち、他の店からも頼まれるようになって、一時期ロマンス通りに僕が描いた看板が林立してたんです。チラシも頼まれていたから、収入は多いときで30万円ぐらいあったかな。いまのお金に換算すると150万円ぐらいですかね?
 クラウン対キューピットのピンクサロン戦争はクラウンが勝って、店長はキューピットを追い出されて、またクラウンに戻ってきたんです。イージーな世界だって思いましたね。でも、給料を減らされたのか、僕に金の無心をするようになったんです。「儲かってるんだろ、少し回してよ」とか言われるようになって、だんだん店長が嫌いになりました。
(聞き書き:松田義人)


末井さん近況
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来年4月公開になる「靖国」という映画を観せてもらったが、すごく面白かった。
その映画を撮ったLI YING監督と鈴木邦男さん。



イベント情報

■12月24日(クリスマス・イブ)原宿・リトルモア地下にて南伸坊さん、上杉清文さん、河井克夫さんと「渡辺和博展・ホーケー文明のあけぼの」のトークショーがあります。展覧会は12月7日〜25日。(20:00〜)

■12月25日(クリスマス)Asagaya/Loft Aにて西原理恵子さんとのトークショー「愛のドロドロ 金のボロボロ」があります。ペーソスも出演。(19:30〜)



末井昭(編集者)
1948年・岡山県生まれ。白夜書房・編集局長。キャバレーの看板描き、デザイナー、イラストレーターなどを経て編集者に。現在はサックスに夢中。主な著書に「素敵なダイナマイトスキャンダル」「絶対毎日スエイ日記」などがある。



vol.13 ストリーキング はコチラから。


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