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レギュラーコラム 末井昭

[2007年11月22日]
vol.11 デザイナー見習い

 新聞の求人欄を見てたら、デザイナー募集っていうのがあったんです。三菱重工を辞めて、デザイン学校も行かなくなっていたから、早速履歴書を送って、駒込にあるその会社に面接に行ったんです。
 染井墓地の近くにある作画会という絵画教室みたいな名前の会社で、社長に「じゃあ、来週から来てください」と言われて、その会社で働くことになったわけ。平間から駒込っていうのは、ちょっと遠いんだけどね。
 いま考えれば、作画会に入ったことは大きな転機だったと思う。原始共産制から第二次産業へ、そして情報産業へのシフトというか、あのまま工場労働者を続けていたら、僕の人生はまったく違ったものになってたんじゃないかって思いますね。考え方も違ってたかもしれない。
 作画会は、社員10人ぐらいのアットホームな感じの会社で、展示会場のディスプレーや看板などが主な仕事で、僕が憧れていたグラフィックデザインじゃなかったんです。たまに遊園地のポスターの仕事が入ってくるんだけど、先輩の絵のうまいデザイナーが担当していて、僕の仕事は看板のデザインがほとんど。
 現場にも行きましたね。覚えているのは東京タワーの飾り付け。あそこはクリスマスが近付くと、「メリー・クリスマス&ハッピー・ニューイヤー」の看板を取り付けたり、展望台をモールで飾ったりするんだけど、お客さんがいなくなった夜やるんです。夜中の特別展望台から見る東京の夜景がきれいでした。昼間は車の中で仮眠して、また夜になると飾り付けをする。東京タワーに3日いたね。
 看板のデザインでは自己表現は難しいから、言われた通りやってたんだけど、2、3カ月したころボーリング場のロビーの装飾を頼まれたんです。初めて任された仕事だったんで、張りきりましたね。自分の情念をぶつけてやろうと。まず天井から天狗のお面を無数にぶら下げる。その間に布を垂らす。アングラ芝居っぽい感じですね。それをパースにして、先輩のデザイナーに見せたら「何これ?」って言われて。いま考えれば、ボーリング場をアングラ芝居にしてどうするんだって思いますけど、そのときは「先輩は何もわかってない」って思いましたね。みんな商業主義的デザインに毒されているって。この人たちには僕が考えていることはわからないって。
 でもね、一人だけ僕を面白がってくれる人がいたんです。Mさんっていう営業担当の人で、よく喫茶店に連れて行ってくれて、一方的に話す僕の話を嫌がらずに聞いてくれました。母親がダイナマイト心中した話も、人に話したのはMさんが初めてでした。
 そしてもう一人、僕とほぼ同時に入った近松さんという人。僕より5つほど年上だったんだけど、横尾忠則が好きでデザインに対する考え方も僕と似ていて、情念的なものが好きだったんです。近松さんとはよく喫茶店で観念的なデザイン論をしてました。まぁ、観念的なのはだいたい僕の方で、近松さんは大人っぽい考えだったんだけど。でも、近松さんにはすごく影響受けましたね。
 それと好きな人が一人いたんです。僕より少し上のデザイナーだったんだけど。男ですよ。男だけど、恋愛してるみたいでドキドキする。その人が他の人と話すのも許せないみたいな。男を恋愛対象として好きになったのは、これが最初で最後でした。でも、好きだってことを告白できないまま、その人はリウマチになって田舎に帰ったんだけど。
 給料はどのくらい貰ってたんだろう? おそらく3万か4万ぐらいだったんじゃないかなぁ。とにかくお金なかったですね。
 暮れの忙しいとき、みんなで残業していて、「腹減ったからラーメン取ろう」ってことになったんです。僕はお金がなかったからラーメンを食べたくても頼めない。すると近松さんが「いいよ、おごるから」って言うんです。で、近松さんにおごってもらってラーメン頼んだんだけど、出前に「2人分はツケといてください」って近松さんが言うわけ。近松さんもお金がなかったんです。「ツケといてって、うちはツケはしてないんだから」とかラーメン屋は言ってる。本当に優しい人だったなぁ、近松さんは。
 半年ぐらいして、近松さんが辞めることになったんです。キャバレーのハワイ・チェーンに入るとかで。
 しばらくして近松さんに会ったとき、近松さんがデザインしたポスターを見せてくれたんです。それを見てぶったまげましたね。
(聞き書き:松田義人)



末井さん近況
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1年振りに大西ユカリと新世界のライブを観て感動。シングル「南部の女」発売中!(ユカリさんと)



イベント情報

■12月24日(クリスマス・イブ)原宿・リトルモア地下にて南伸坊さん、上杉清文さん、河井克夫さんと「渡辺和博展・ホーケー文明のあけぼの」のトークショーがあります。展覧会は12月7日〜25日。(20:00〜)

■12月25日(クリスマス)Asagaya/Loft Aにて西原理恵子さんとのトークショー「愛のドロドロ 金のボロボロ」があります。ペーソスも出演。(19:30〜)



末井昭(編集者)
1948年・岡山県生まれ。白夜書房・編集局長。キャバレーの看板描き、デザイナー、イラストレーターなどを経て編集者に。現在はサックスに夢中。主な著書に「素敵なダイナマイトスキャンダル」「絶対毎日スエイ日記」などがある。



vol.10 セックス・マシーン はコチラから。


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