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レギュラーコラム 末井昭

[2007年10月18日]
vol.6 工場に失望

 高校を出て大阪の工場に集団就職。といっても僕の高校からは2人だけだったんだけど。
 やっと田舎から脱出できると思っていたけど、家を出るときはちょっと感傷的になりましたね。故郷に未練はなかったけど、弟は中学を卒業して大阪で働いていたし、父親は川崎に出稼ぎに出ていたし、家には母親だけだったから、母親を1人残して行くっていうのがちょっと辛かった。
 本当の母親はダイナマイト心中でとっくに亡くなっていたけど、それから4年後に来た母親です。最初は「お母さん」て呼べなくて「おばさん」て言ってました。無口な人で、生き別れになった子供もいたらしいけど、自分の話はほとんどしない人だったから過去は知らないまま。2番目の母親とはちょっと距離があったけど、一緒に暮らしていると情が移るっていうか、家を出るときはお互い涙目になってました。
 就職先の工場は大阪っていうから、てっきり都会のど真ん中だと思っていたら、大阪の郊外の枚方っていうところで、周りは工場と田圃だけ。びっくりしましたね、えらいとこに来たって。
 寮に入ったんだけど、その寮がまたすごい。西日本の各地から来た高卒ばかりで、当然ながら全員男子。九州の人が半分以上占めてたから、寮の中で九州弁が飛び交っていて、騒いだりすると「しゃーしー!」とか罵声が飛んだりして。「しゃーしー」って言われても意味がわからない。
 僕は同級生のK君と同じ部屋だったんだけど、よく2人で相互オナニーをしてました。お互いのチンチンを触りあうわけ。お互い目を閉じて女の人を想像して。単に自分でやるよりやってもらったほうが気持ちいいからということだけですけど。
 寮も工場もむさくるしい野郎ばっかりで、みんな女に対する妄想のボルテージはものすごいものだったんじゃないですか。だからといって風俗店が近くにあるわけではないし、あったのは食堂が1軒だけ。それもラーメン頼むとインスタントラーメンが出てくる店。それにお湯をかけて、はい50円。それでもおいしいと思って食べてました。寮の食事だけでは物足りないから。
 1回だけ女の子とデートしたことがあるんです。高校のときから文通していた女の子がいて、その子が大阪で働いていたんです。僕が大阪に行くって手紙に書いたら、向こうから会いたいって手紙が来て。で、難波で会ったんだけど、会ってみるとすごいブスで。向こうも「すごいブ男」と思ってッガッカリしたんじゃないですか。とにかく女に飢えていたから、ブスでもなんでもセックスしたかったけど勇気がなくて、ナンバ一番というライブ喫茶みたいなところに行っただけで、それっきり会ってません。
 工場がまたすごくて、ステンレスの線を作っているんだけど、太い線の先を削ってダイヤモンドでできた穴に通して、ウインチで引っ張る。危ないんですよ、これが。ときどき切れて線が飛んでくる。しかも24時間稼動で、僕らは3交替で働くわけ。1週間経つと勤務時間が8時間づつズレていく。夜勤のときはイネムリするからさらに危ない。えらいとこに就職したと思いました。一生こんなことやるのかって。
 工場に憧れて、憧れの工場に就職したけど、想像していた職場とは全然違う。ここから逃げ出さないといけないと思うようになりました。
(聞き書き:松田義人)


末井さん近況
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「犬の呼吸法」を開発。舌を出してハッハッハッと犬のように呼吸するとテンションが上がる。


末井昭(編集者)
1948年・岡山県生まれ。白夜書房・編集局長。キャバレーの看板描き、デザイナー、イラストレーターなどを経て編集者に。現在はサックスに夢中。主な著書に「素敵なダイナマイトスキャンダル」「絶対毎日スエイ日記」などがある。

vol.5 工場で働きたい はコチラから。


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