[2009年08月10日]
vol.20
これは確か、俺が小学校2年生の頃の話だそうだ。
俺はテレビか何かで、バナナの皮で人がすっ転ぶのを見たらしく、本当にそうなのか試してみたくなって、この日、小さな俺は実験を試みたくなって、この日、小さな俺は実験を試みたのだった。
実験するにあたって、まず、バナナの皮がなければならなかったので、家にあったバナナをひとふさたいらげた。(多分、4、5本はあったのではないかと思われる。)だが、さすがに、この頃の俺には、バナナひとふさは、ちとキビシかったようで、急な腹痛をおこしてしまい、お袋にはスゲー怒られるし、今までに見たことのない大量のゲロを吐くわけで、実験初日は悲惨な結果に終わってしまったのだ。
そして、次の日。具合は多分良くなっていたのだが、さすがにバナナを食べるのがこわくて。ていうか、バナナはこの日家には無くて、つか、俺が昨日全部食っちゃったからなんだけど………。なもんで、この日の実験は見送りで………。
そして、数日後。気力も体も復活したところで、いざ! 実験開始! と思って居間に行ってみると、いつもテーブルの上の器に入っているはずのバナナが、ない! いや〜、またしても実験見送りか〜、と思っていたら、お袋が台所のほうから現れて、
「なに〜? な人が探しているの〜?」
俺はその声に一瞬、ビクッ! として、
「なんでもないよ、なんでもないよ。あの〜、その〜、バナナなんか探してないよ!」
バカな俺は、口をすべらせてしまった! しまった! と思いながら、お袋のほうをゆっくり振り返ると
「そうだと思った! 別にバナナを食べてもいいんだけど、そこに出しておくと、アンタまた全部食べちゃうと思って、ほら、今日はこれだけね! はいっ。」
と、1本だけもぎって、バナナをくれた。
俺は、とにかく早く、とにかく早く、実験をしたかったので、そのバナナを口いっぱいにほおばり、とにかく早く、とにかく早くと、どんどん詰め込んでいたら、今度は喉につっかえてしまい、おもいっきりむせ、バナナをブァーと吐きだしてしまった。
その光景を見たお袋が、
「アンタ、どうしたの? なんかおかしい。なんかおかしい。なんで? どうして? この前もあんなにたくさんバナナを食べて。今日は、そんなに、誰も取はしないのに急いで食べて。アンタ、なんか、おかしい。何かあるなら言いなさい。ねぇ〜! ちゃんと言いなさい!」
さすがの俺も、ここはちゃんと話さないとヤバイ! こっぴどく怒られる! そして、バナナが取り上げられる! そしたら実験が! 実験が! と思い、一か八か、伸るか反るか、これから行おうとしている実験内容を素直に話すことにした。
「あの〜、あの〜。バナナの皮で人が本当に転ぶのか見てみたいんだよ! だって、なんかで見たことあるけど、本当に見たことがないから、やってみたいんだよ!」
俺は、完全に怒られる。いや、マジで怒られる。でもちゃんと話さないと、それはそれで怒られる。なんにせよ怒られる。と思って、恐る恐るお袋の顔を見たら、ナ、ナント! お袋がニッコリ笑っているではないか!
「うん、わかった。アンタ、ちゃんと話してくれたし、おもしろそうだから、やってみなさい! でも外でやったら、誰か転んでケガしちゃうと大変だから、家でやりなさい。家の中でやりなさい。」
「でも〜………。」
「お父さんがもう少しで帰ってくるから、お父さんにやってみなさい。」
「でも〜………。間違ってお父さんが転んだら〜………。」
「まぁ〜、そん時はそん時。それに、アンタもお父さんに似て、こうと思ったらやらなきゃ気が済まないタイプみたいだから。とにかかく、やってみなさい。っていうか、さいきんあの人。お父さん、調子にのってるから、やりなさい! うん、そう! やりなさい! 何かあっても、お母さんがちゃんとお父さんに言うから! やりなさい! むしろ、やれ!」
俺は、こんな答えが返ってくると思わなかったので、ある意味拍子抜けしてしまったが、まぁ〜、実験ができるなら、いっか! そうだ、そうだ! いっか、いっか!
という訳で、早速お袋とバナナの皮をどこに置くのかを相談して、その結果、2階に上がる階段の途中の、ちょっと暗くなっている所に置くことになった。そこなら目立たなくていいだろうということで………。
その時は実験で頭がいっぱいだったけど、今考えると、お袋は鬼だな。その頃相当父親に思うところがあったんだな、きっと。しかし、女は怖いね〜! 階段なんて間違いがあったら一番危ないところなのに!
まぁ〜、そんなこんなで早速バナナの皮を階段に置き、俺はいつも通り居間で宿題をし、お袋はいつも通り台所で夕飯の用意をして、親父が帰ってくるのを、いつも通り、いや、ある意味いつもより楽しみに待っていた。
そして、外はもう暗くなり、そろそろ親父の帰ってくる時間になった。
すると玄関の向こうで、門が「ガチャ、ガチャ」と開く音が聞こえた。その音を聞きつけた俺は、なんだかじっとしていられず、台所に飛んでゆき、
「ねぇ、ねぇ、ねぇ〜。大丈夫かな? ねぇ〜、大丈夫かな?」
と、台所に立つお袋の顔を覗き込むと、お袋は大根を刻みながら一点を見つめ、ニヤッとしていた。今まで見たことのないお袋の顔にゾッとしていると、
「ただいま〜!」
何も知らない父親がのん気に帰ってきた。その声を聞いた俺は、これからの実験が悟られないように、いつも通りにしてないと、と思い、今度は居間の宿題をやっていた場所へ飛んでいった。
さぁ、ここからが本格的な実験の始まりだ。
とは言え、俺は「いつも通り」「いつも通り」「いつも通り」と思えば思うほど、いつも通りに出来なくなってしまい
「あ〜、おかえりなさ〜〜〜〜い! ねぇ〜! ねぇ〜! お土産ないの〜! お土産〜!」
と、いらぬことを叫びながら、玄関まで出迎えに行ってしまった!」
(いや〜、しまった! いや〜、しまった! 全然全くもって、いつも通りじゃない!)心の中でそう思いながらも、頭の片隅には実験のことがちゃんとあったのか、
「な〜んだ〜、お土産ないのか〜。そっか〜。じゃ〜、いいや〜。あのさ〜、宿題解らないのがあるから、早く着替えて、みてよ〜〜!」
と、父親の背中を押して階段へ登らせた。
すると、普段俺が宿題みてよ〜! なんて言わないもんだから、逆にそれがうれしかったみたいで、
「なんだ、なんだ、宿題か〜! よし! じゃあ、待ってろよ〜!」
その父親の弾む声を聞いて、そして、跳ねるような足取りをみて、
「よっしゃ〜!」
と小声でガッツポーズをとっていたら、
「ドタンッ!」
と、大きな音をたてて、まぁ〜見事に父親がバナナの皮ですっ転んで、ズルズル、ズル〜と、階段をなだれ落ちてきた。
俺は見た。本当に見た。バナナの皮で人が転ぶのを。しかも、階段を雪崩のように落ちてくる人の姿を………。
階段の下まで落ちてきた父親は、何がなんだか、一体何が起こったのか、ガッツポーズをとっていた俺の顔を見て、一瞬キョト〜ンとしていたが、だんだん痛さが込み上げてきたようで、
「イテ、テ、テ、テ、テ〜〜〜! いや〜、イテ、テ、テ、テ、テ〜〜〜! 頭、打ったわ〜! 頭〜!」
と、頭を押さえる父親の鼻から鼻血がス〜ッと1本流れ落ちてきた。
さすがに俺も鼻血とはいえ、血を見たらなんだか急に怖くなってしまい、
「お母さ〜ん! お母さ〜ん! 大変だよ! 大変〜〜! お父さんが〜! お父さんが〜! 血〜、血を流してるよ〜!」
それを聞いたお袋が、慌てて台所から飛び出してきて、鼻血を垂らしている父親に抱きついたが、その勢いがあまりにも凄かったので、父親はお袋を抱きかかえたまま階段に倒れこんでしまった。
「イ、テテテテテテテェ〜〜〜。重いよ、重いよ〜! ちょっと早く、早く、早く、どいて〜!」
階段に後頭部をぶつけた父親は、頭を押さえ鼻血を垂らしながら
「なんだよこれ〜。一体、なんだよ〜。え〜、イテテテテ〜。とにかく、お前、ちょっと、どいてくれよ〜。」
そう言って、お袋を起き上がらせて、ふと顔を見ると、涙をいぱいためたお袋が小さい声で、
「実験、成功。実験、成功。」
と、泣きながら笑っていた。
親父は頭は痛いし、鼻血は出たままだし、お袋は訳のわからぬことを言っているし、帰ってきて早々、一体わが家はどうなってるんだ〜って、顔で俺のほうを見た。でも、その頃俺は子供だったから、この複雑な光景が全く理解できず、とりあえず階段に残されたバナナの皮、あれはあるとなんかマズイってことだけはわかった。だから俺は急いで階段に座っている父親を押しのけ、
「トーッ!」
と、よくわからない奇声を発しながら、サッとバナナの皮を拾い、父親とお袋の寝室に逃げ込んだ。
そして、寝室に逃げ込んだ俺は、ベッドに横になっていたら、なんだか眠くなってきて、知らぬ間にウトウト、ウトウト、寝てしまった。
そして、どのくらい経ったかわからないが、
「ごはんよ〜! おりてらっしゃ〜い!」
お袋のその声で目を覚まし「ハッ!」一体、どうなった、下はどうなっている! そんな思いで、でも恐る恐る階段を降りて行った。
すると食卓では、父親とお袋が仲良く食事をしていた。最近こんな感じの父親とお袋を見たことがなかったので、しかもさっきのこともあったので、俺は何がなんだかよくわからなかったが、まぁ、腹も減ったし、いっか〜、てな感じで飯を食いはじめた。
すると、お袋が飯を食いながら、俺の方をチラチラ見てくる。俺はそれが何なんだか、何のサインなのか、さっぱりわからず、 思わず大きい声で、
「なに〜っ!」
って、聞き返してしまった。それを聞いた親父は、わが家でまた何か始まったのかとキョロキョロしていたが、すかさずお袋が、
「お父さん、本当に大変だったわね〜。まさかね〜、階段で転ぶなんてね〜。大丈夫〜。痛かった〜? もう、鼻血も出てないみたいね〜。」
と、ニコニコして、俺の方をチラッと見た。
俺は、何がなんだかさっぱりわからなかったが、とにかく飯を食い続けた。
そして次の日。
俺が学校から帰ってくると、お袋がサササッと近寄ってきて、
「昨日の実験。成功したね〜!」
と、嬉しそうに話してきた。そして俺は突然思い出した。
「あの、俺、お父さんとお母さんの寝る部屋に、バナナの皮、置いてきちゃったんだけど、大丈夫? 大丈夫だった?」
すると、お袋はニッコリしながら、
「うん! 大丈夫だったわよ! ご飯の後、お父さん結構お酒飲んでて、上機嫌で、そのままバタンで寝ちゃったから! 全然気付いてなかったわよ! バナナの皮のこと! 寝てる隙にかたしておいたから、心配ないわよ〜!」
でも、俺は気になった。別のことが気になっていた。なんであんなにお母さんが泣いていたのか。
「なんでお母さん、あんなに泣いてたの〜? ねぇ〜、ねぇ〜、なんで〜?」
するとお袋は遠くを見ながら、
「お母さん、お父さんに飛びついたのは、ちょっと血を見て、まさかこんなことに〜と思って、なんか気が動転しちゃったか、まぁ、なんだかわからないけど、そうしちゃったの。でもね、なにが嬉しいってね、あの、倒れたとき、お父さんが、お母さんをちゃんと抱いてくれたことなのよ! 下手すりゃ、はねのけられてもおかしくなかったもの。でもね、お父さんちゃ〜んと、抱きかかえてくれたもの…………。だから。実験。大成功!」
子供の俺にはよくわからなかったが、まぁ〜、バナナの皮で、本当に人が転ぶのも見られたし、最近ちょっと仲が悪そうだったお父さんとお母さんが楽しそうにやってるみたいで、いろんな意味で実験大成功だったのかな? と!
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僕らの知らない小さな僕らvol.19 はコチラから。


























