[2009年06月25日]
vol.17
これは確か小学校2年生頃の話だそうだ。
ウチは俺が3才の頃に親父を亡くしたので、この頃は、お袋と、ジィちゃんと、バァちゃんと4人で暮らしていた。
もちろんだが、ジィちゃんは働きに出てて、そして家計のためにお袋も働きに出てて、だから学校から俺が帰ると、家にはバァちゃんがいるって感じだった。バァちゃんは父親もいなく、家に帰ってきても母親もいない俺を可哀想に思ってくれたんだろう、本当に、本当に、俺のわがままに付き合ってくれて、本当に優しくしてくれた。忘れてしまった事もたくさんあるが、本当によくしてもらった! そんな感じと記憶が俺にはある。これはそんなある日の出来事だそうだ。
バァちゃんは、俺が子供だけど男だったから、そして、父親もいなかったから、そして、将来、お袋を助けるためにも何かあるたびに、
「バァちゃんと約束してなっ。早く、早く、自分の道をみつけてなっ。」
そういったは、ニッコリ笑って、俺のやりたい放題に付き合ってくれた。俺もあまりにもバァちゃんが、そういってくるのでちょっとウルサく思ったのか、はたまた小2ながらの男の決断だったのか、まぁ、それはよく分からないが、朝、学校に行く前に、
「バァちゃん、俺、自分の道をみつけてくるから、待っててなぁ!」
そう言って、玄関の前で見送るバァちゃんに、何度も何度も振り返っては、手を振って、登校して行ったそうだ。そして学校が終わり、俺は家に帰ってくるとすぐ、バァちゃんの手をひいて、
「バァちゃん! バァちゃん! バァちゃん! 俺、自分の道、みつけてきたから、いいから、ついてきて〜!」
少し足の悪いバァちゃんを、若干、引きづりまわすかたちで。外へ連れ出した。すると、家を出て、1つ目の曲がり角の地面に、白いチョークで、
「おれのみち」
それと矢印が書いてあったそうだ。それを指差すと、ニコニコ、ニコニコ、笑いながら、また、バァちゃんの手を引いて、トコトコ、トコトコ………。今度は本屋の脇にある、かなり細い路地の入り口にある電柱の下の方に、
「おれのみち」
そして、また、矢印が書いてある。そして、そして、またまた、またまた、バァちゃんの手をひいて、トコトコ、トコトコ………。そして、また、大通りを渡る。横断歩道の真ん中あたりを指差して、
「バァちゃん、ほら! 車、走ってるけど見える? ほら、あそこ、ほら!」
バァちゃんは年のせいで、そして車も走っているし、よく見えなかったらしいが、
「あ〜、あ〜、見えるよ、見える〜。ん〜、ん〜、書いてあるね〜! おれのみちって〜!」
年をとったバァちゃんでも、さすがにピンときたようで、
「これは、いったい、どこまで続くんかい?」
信号が変わる前に聞いたら、
「とにかくおれは、みちを決めたんだ! ついてきて〜!」
信号が青になると、また〜、バァちゃんの手をひいて、トコトコ、トコトコ、トコトコ、…………歩いていったそうだ。結局そう言ってたどり着いた先は、俺の通う小学校だったそうだ。いよいよ、歩き疲れてしまったバァちゃんは、
「ここが “おれのみち” の終点かい?」
そう聞くと、俺はバァちゃんの手を強く握って、
「違うよ! これからが、おれのみち、なんだよ!」
さぁ、いよいよ、バァちゃんは、本当にしんどくなってきて、
「お母さんも、もう家に帰ってきていると思うから、車で迎えにきてもらおうや。バァちゃん、あそこから電話するから〜。」
と、公衆電話を指差して、鈴のついた財布をバッグから取りだそうとすると、
「バァちゃん、大丈夫! 休めるところ、あるから!」
そう言って、いやいや、まだバァちゃんの手を引っぱって来た道とは違う道を歩きだしたそうだ。バァちゃんは、トコトコ、トコトコ、歩くすがらに、「おれのみち」それと、矢印。それをいくつも、いくつも、いくつも、見届けながら、そして、大きな、大きな、背丈の高い草が生い茂る草むらの横を過ぎようとすると、
「バァちゃん、ここが、おれの、おれのみちなんだよ!」
そう言うと、俺は、自分の背より高く生えている草むらの中を、グングンかき分けて、
「バァちゃん、早く! ここが誰も通らない “おれのみち” なんだよ! 誰も知らない“おれのみち” なんだよ! ここなら、バァちゃん、休めるよ!」
多分、相当疲れており、そして、面倒くさかっただろうに。バァちゃんは、ニコニコしながら、
「そうかい、そうかい」
足を引きづりながら、俺が戦隊もののマネをしながら草をなぎ倒したところに腰掛けた。
「あ〜、やれやれ〜。ここが “おれのみち” なんだね〜。」はぁ〜“おれのみち” は険しいもんだね〜。」
そう言うと、ゴロンと横になってしまった。俺も子供心に、バァちゃんをちょっと疲れさせてしまったなぁ〜と、多分思ったんだろう。バァちゃんをしばらく、そっとしておきつつ、俺は「おれのみち」で、草と言う名の敵を片っ端から倒してた。
いやいや。子供は本当にアホなもので、敵を倒すのに夢中になって、辺りは暗くなっているのに、一緒にきたバァちゃんのことをすっかり忘れて、草むらの奥の奥のほうまで、つき進んでいた。
「なんだか、寒くなってきたね〜」
遠くから聞こえるバァちゃんの声で、やっと気づき、帰らなくっちゃ、暗くなってる! そして急いでバァちゃんのもとに駆け寄ると、なんと、バァちゃんは寝ていて、というか、さっきのは寝言で、俺はとにかく焦って、
「バァちゃん、バァちゃん、早く起きて! ねぇ、ねぇ! ねぇ〜! もう暗いよ! 暗いよ! 帰らなきゃ!」
そう言って、バァちゃんを揺り動かし、起こした。するとバァちゃんは、何事もなかったような顔をして、
「あ〜、なんか久しぶりね〜、こんなの〜。あんたのお父さんの小さいころ、よくこんなことあったわ〜。あ〜、気持ちよかった〜。」
そう言うと、バァちゃんは相当疲れていたんだろう。また横になって寝てしまった。俺はとにかく早く帰らないと、こんなに暗くなったら、お袋にこっぴどく怒られる。そう思ってバァちゃんを何度も何度もゆすったが、バァちゃんは、全然起きる気配がない。かといって、バァちゃんをおぶることも出来ない。こうなったらこういう時は、そう、子供は泣くんですね。もう、どうしていいか、わからなくなってしまった俺は、バァちゃんを草むらに置きっぱなしにして、大泣きしながら、とにかく、とにかく、近道で、草むらの後に続くはずだった「おれのみち」と矢印を完璧に無視して、人の家の庭まで横切って、家に帰った。そして、家につくなり、
「バァちゃんが起きない! バァちゃんが起きない!」
と、一瞬、お袋とジィちゃんを焦らせ、ようやく俺を落ちつかせたお袋が話を聞きだし、草むらに、1人取り残されたバァちゃんを車に乗り、迎えにいこうとしたら、
「ただいま〜! いや〜 “おれのみち” は本当に険しいね〜!」
と、玄関のほうからバァちゃんの声がした。俺はそのバァちゃんの声を聞いてホッとしたのか、なんなのかわからないが、また泣きだして、
「おれの、おれの、おれの………。」
そう言いながら、外に飛び出して、家を出て1つ目の曲がり角の地面に書いた「おれのみち」と、矢印を、ツバを吐きかけ、足でもみ消していたそうだ。
BIKKE(ミュージシャン)
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僕らの知らない小さな僕らvol.16 はコチラから。

























