[2007年10月12日]
僕らの知らない小さな僕ら vol.14

これは確か、僕が幼稚園の年長頃の話だそうだ。
今もそうだと思うのだが、幼稚園や保育園の行きと帰りは、保護者が同行して、送り迎えするのだが、当然僕の場合も母親がそうしてくれていたそうだ。
が、ある日の朝、風邪かなにかで、ひどく熱が上がってしまい、とてもじゃないけど、僕を送っていくことが出来なくなってしまった母親が、さて、どうしようと思っていたら、
「お母さん、大丈夫! オレ、一人で行けるから、大丈夫!」
そう言うと、サッサとカバンを肩にかけ、靴を履いて、
「いってきま〜す!」
と、何のためらいもなく、走って玄関を出て行ったそうだ。
母親は僕があまりにそっ気なかったので、逆に心配して幼稚園に行っている間中
「一人で、本当に大丈夫かしら。車が来たら、ちゃんと端に避けられるかしら。河野さんの家の前を通れるのかしら。砂利道で転ばないかしら。あれ?あの感じ、本当は私と行くの、イヤなのかしら……。」
などなど考えて、寝ていられなかったらしい。とは言え、薬を飲んでいたので、お昼頃からウトウトとしてしまい、気付くと、
「ただいま〜!」
という、僕の声で目を覚ましたらしい。その声にあわてて、飛び起きた母は、寝床から僕を呼んで、
「大丈夫? 大丈夫? ケガはなかった? 途中でオシッコ大丈夫だった? ん〜、ん〜、それで先生何か言ってた?」
そう焦って聞いてくる母親に
「うん。先生、何も言ってなかったよ〜。」
と、ヒョウヒョウとしていたら、
「だって、誰もアンタに付いて行っていないのに〜。先生も先生だね〜。どうしちゃったのかしら〜。」
「うん。だって、幼稚園の門の所で、お母さ〜ん、行ってくるね〜! バイバ〜イ、って言ったら先生、おはようって、ニコニコして言ってたよ〜。」
「え〜、だって、私、行ってないじゃな〜い。」
「うん、そうだけど、そうすれば、先生、心配しないかなぁ〜と思って〜!」
そう言って、カバンを置いて、遊びに行こうとする僕に、
「あらま〜、やだわ〜、この子ったら〜。それで、帰りはどうしたの?」
「え〜、帰りは〜、門のところで〜、先生、さよーならって、大きい声で言って〜、あっ、お母さんだ〜って、言いながら〜、走って出てきた〜。だから、全然、大丈夫だったよ〜。」
この話を母親がする度、
「アンタは、手のかからない子だったなぁ〜。いろんな人に、心配かけない子だったなぁ〜。小さいのにまぁ〜。って、思っていたけど、大きくなってみたら、ただただ世渡り上手なだけで、一体、陰で、何をやってんだかね〜。」
と、良い話をしてもらっているつもりが、最後はイヤミになって……。
BIKKE(ミュージシャン)
CMナレーションでも活躍中!
日産マーチ「しあわせマチ子さん」篇
からだ巡茶「さよならハロー・シャワー」篇
BIKKE
プロフィール
1968年生まれ。牡羊座A型。1980年代終盤、渡辺俊美(Vo, G)、川辺ヒロシ(Turntable)らと出会い、TOKYONo.1 SOUL SET結成。自主制作でのレコーディングを行ないながら、様々なイベントに出演。
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