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レギュラーコラム BIKKE

[2007年08月01日]
僕らの知らない小さな僕ら vol.9

070801_4.jpg これは確か、ボクが小学校低学年の頃の話だ。
 担任の先生から、帰りのホームルームの時、
「えー、友達の物と間違えないように、自分の持ち物には、全部名前を書いておくように。」と言われた。そして、その日、家に帰ってから早速、ランドセルに入っている物を全部出して名前が書いてあるかどうか確かめた。筆箱、定規、下敷、教科書、ノート、……。すると、ほとんどのモノはお袋が書いてくれていたのだが、“ハサミ”だけ名前が書いてなかったのだ。だもんで、夕食後、兄ちゃんに
「ねーねー、俺、字下手だから、名前代わりに書いてよー。」
 と頼んだら、いつもなら
「なんだよー、うるせーなー。知らねーよー。」
 と、返してくる兄ちゃんが、
「いいーよー。書くいとくから、そこに置いといてー。」
寝そべってテレビを見ながらだが、心地良い返事をしてくれた。俺は「アレッ」と思ったがついでに、
「俺、もー眠いから、書いたらランドセルの中に入れといてー。」
 と言うと、テーブルの上のハサミをちらっと見て、
「いいーよー。書いたら入れとくー。じゃあーねー。おやすみー。」
 と、またまた心地良く返事をしてくれた。
 なんだか、いつもと兄ちゃんの俺に対する態度が違ったのが気にはなったが、いつものように、蹴られたり、叩かれたりするよりはなんだかいい夢が見られそうだと俺はグッスリ眠った。
 そして、次の日の朝。俺はいつものようにギリギリまで寝ていて食パンをかじりながら、靴を履き兄ちゃんを追いかけるように学校に向かった。そして、兄ちゃんに追い付き、
「ねーねー。名前書いといてくれたー。」
 と、息を切らせて聞くと、
「あー、ちゃんと書いて入れといたよー。」
 と、いつものケンカ口調ではなく、なんだか優しい声で答えてくれた。俺はまた「アレッ」と思ったが、遅刻をしそうだったので、気にせず学校に走っていった。
 そして、学校へ着き朝のホームルームの時間、担任の先生が
「えー早速だけどー。昨日、自分の持ち物には名前を書いておくようにって言ったけどー。書いてきたかなー。えー、まだ書いてない人は早めに書いておくように!」
 それを聞いて「ハッ」と思ったが、そうだ。そうだ。俺は昨日兄ちゃんに書いてもらったんだー。そう思いながらランドセルを開け、筆箱、定規、下敷き、教科書、ノートを取り出し、兄ちゃんに名前を書いてもらったハサミを取り出すと、ハサミの切るほうの部分に、ものすごく小さく切った紙の上に、それを覆いかぶせるようにキレイにセロテープが刃にそって貼られてあった。そして、その貼られた小さな紙を見ると、そこにはなんと俺の名前ではなく、ものすごく小さな字でしかも縦書きで「は さ み」と書いてあった。
 そうです。そうです。確かに俺は兄ちゃんに名前を書いてくれと頼んだ。そして、確かに名前は書いてあった。そして、間違ってはいなかったが…。
それ以来、兄ちゃんが心地良く、優しい声で返事をしてくれた時は、なにかある! なにか企んでる! と思うようになってしまった。
そしてそのトラウマチックなものは、大人になった今でも残っているようで、心地良さや、やさしさに、素直になれない自分がいるような……。