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レギュラーコラム BIKKE

[2007年06月18日]
僕らの知らない小さな僕ら vol.8

070618.jpg これは確か、私が幼稚園の年長の頃の話だそうだ。
 ウチの母は今も治っていないのだが、物を見るとすぐにおう癖がある。冷蔵庫を開けると、片っ端にありとあらゆる物をにおい、賞味期限等は見ずににおいだけで「イケるかどうか」を判断する。そう、すべて母の嗅覚で判断される。

 たとえそれが洗濯物であっても母の嗅覚が「まだイケる」と判断したら、大概のものは3、4日洗わずにタンスに戻されるのだ。
 そしてその頃、私が一番仲良くしていた友達の家に遊びに行って、夕飯時だからと帰ろうとすると
「あら、もう帰るの? カヨちゃん。今日はハンバーグだから食べていったら? お母さんにはオバサンが電話しておくから。たくさん作ったから食べていきなさいよ〜」
 今はそうでもないが、その頃ハンバーグが大好物だった私はそのオバサンの言葉にべったり甘えて
「は〜い!」
 と、声高らかに薦められてもいない椅子に勝手に座り獲物がくるのをソワソワしながら今か今かと待っていた。
 すると台所からまぁなんともいえない良いにおいがして、しかもよそ様の家なもんだから若干の緊張もあって、ウチのハンバーグのにおいとは格別に違う、まるでどこかのレストランにでもいるようなそんな気さえするにおいだった。
 そしていよいよその芳しいハンバーグが私の目前に着陸したとき、ウチのハンバーグには乗っていないものがお皿の上にあることに気づいた。それはニンジン、ブロッコリー、フライドポテトとコーンであった。たしかにどれもウチで見たことはある。しかしハンバーグ皿にはハンバーグしか乗っていない。しかもハンバーグ自体、ちょっと形が崩れていることが多かった(ウチの母はあまり料理が上手ではないので、ハンバーグが生焼けかどうか割ってチェックしていたものと思われる)。でもまぁそんなことを気にしたのは一瞬で、急いで獲物を口に入れようとしたその時、
「あら、どうしたの? カヨちゃん。あ〜そうか、カヨちゃんちのソースと違うから……。そうなのねぇ〜」
 そ、そうなのだ! 私は自分でも気づかないうちにハンバーグのにおいを嗅いで楽しんでいたのではなく、そ、そうなのだ! におっていたのだった〜! 私は知らず知らずのうちに、母がやっていることを頭からバケツをひっくり返されたぐらいまるかぶりでやってしまったのだ〜っ!
 が、ここまでだったら自分でそうだと思うだけで素直に受け入れる良い子な私だったので、
「うん! まだイケる! まだイケるよ。オバサン!」
 と言ってしまったのだ……。
 するとオバサンは
「まだ? まだいける? ん〜、そう。あら〜良かったわ」
 ……本当に育ちの良い家はこうなんだなぁ〜と、大人になって実感しました。
 そして帰宅し、
「ハンバーグのにおいを嗅いで『まだイケるっ! まだイケるっ』てオバサンに言ったら『あら〜良かったわ〜』って言ってたよ」
 と母に報告。すると
「もう〜あんたはなんてこと言うの? もう〜なにを言ってくれるの〜!」
 と、顔を真っ赤にしながらどこかへ電話をし、頭をペコペコさげていた。