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レギュラーコラム BIKKE

[2007年04月06日]
僕らの知らない小さな僕ら vol.5

070406.jpg これは確か、保育園の年少の夏休みが終わる頃の話だそうだ。
 ある日の夕方、僕は全身ビショビショになって帰って来たらしい。その姿を見た母は、
「あんたー! そんなに濡れて、どうしたの! こんな頭からつま先まで、ビチョビチョにしちゃってー! もー、雨だってこんなにならないわよー! どうしたのー? ねー!」
 そう言って、服を脱がそうとしたそうなのだが、僕はその手を振り切って、明後日の方を見ながら(当時僕は相当しでかしていたらしい)、
「泳いだ! プールで泳いだ!」
 と、スネた感じでいたそうだ。すると、少し開いていた玄関のドアの隙間から、なにやら物音がするので、母さんがゆっくりドアを開けてみると、いつも僕と一緒に遊んでいる友達が、モジモジしながら横一列に、ピシッと整列していたらしい。母さんは、
「そんなとこにいても暑いから、みんな家にはいんなさいよー」
 と、家の中に入れると、みんなを居間に一旦座らせておいて、まだ玄関でビショビショになってスネている僕に、
「なに、ねー。泳いだって、あんた、服のまま泳いだの? ねー」
  そう言われたのだが、まだ明後日の方を向いたまま、
「そうだよ! 泳いだよ! 泳いだのー!」
 と、自分の意見を曲げない様子に、
「じゃあ、あんた。リョウちゃん達(居間に座らせられてる友達)に聞くけど、いいーのー」
 と、母さんが言った瞬間、
「あのー、みんなでー、棒でー、戦ってたらー、プールにー、戦ってたやつがー、落ちちゃってー、それをー、拾おうとー、思ってたらー……」
 と、慌てていると、
「ん〜。だからー、泳いでいたんじゃなくってー、落ちたんでしょ。棒を拾おうと思って、プールに。ちがうの?」
 すると、今度は怒りだして、
「ち、が、う、よー! 泳いだんだって、言ってるじゃねーか!」
 そう言い張るもんだから、
「んー。はい、はい、わかった。泳いだのねー。泳いだんだよねー」
 と、一旦僕をなだめておくと、急にリョウちゃん達のほうに振り向いて、
「ねぇー、ねぇー、大(僕)はプールに落ちたんだよねー。落ちたんでしょ。棒を拾おうと思って。ねぇー、別に怒ってるわけじゃーないんだからね。ねぇー、リョウちゃん達、一緒に遊んでいたんだから、見てたよねー?」
 突然、矛先が自分達に向かってきたので、リョウちゃん達は相当焦ってしまったらしく、つい、その中の一人が、
「大ちゃん、プールに落っこっちゃったんだよー。棒、拾おうと思って」
 と、言ってしまった。だが、その中でも一番仲の良かったリョウちゃんが、
「ちがうよ! 大ちゃんは泳いでた! 泳いでたよ〜!」
 と、言ったとたん、他の連中も(さっきまで「落っこっちゃったんだよー」と言っていた奴も)、
「泳いでたー! 泳いでたよー! 大ちゃんは泳いでたー! 大ちゃんはー、大ちゃんはー」
 さながら、大合唱のように声を合わせて、僕が怒られると思って、子供ながらにフォローしてくれたのだと思う。
 とにかく母さんは、僕が無事だったのでそれ以上、僕にもリョウちゃん達にも、問いつめることはしなかったらしい。
 だが、僕は数日後、また、全身ビショビショになって、帰ってきたらしい。ドアの向こうには、リョウちゃん達の姿は、なかったそうだ。
 母さんが言うには、あの時点では僕は全く泳げなかったらしい。当時通っていたスイミングスクールの先生に、
「他の子は、泳げるようになったんですけどねー。大ちゃんはー……」
 と、言われていたそうだ。
 そして、あの時、みんなが帰った後に母さんに言われた。
「あんた、泳いだ、泳いだって。あんた、あの中で、泳げないの、あんただけなんだからねー。っていうか、あんた、人生で一度もまだ、泳げてないからー」
 と。