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レギュラーコラム BIKKE

[2007年04月27日]
僕らの知らない小さな僕ら vol.6

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 これは確か、幼稚園の年長頃の話だそうだ。
 この日は日曜で、昼飯をすませたお袋が部屋に掃除機をかけていると、玄関の方から泣き声が聞こえてきたそうだ。だが「まぁ、近所の誰かが泣いているのねー」くらいに思って掃除を続けていると、その声が段々大きくなってきたので「あら、どうしたのかしら?」と思い、掃除機を止めたそうだ。するとその泣き声が、家の玄関の前から聞こえてくるのがわかり、急いでドアを開けると、もの凄い勢いで泣き叫んでいる俺が体をヒクヒクさせながら立っていたらしい。この様子は普通じゃないと思ったお袋は、俺を抱きかかえ家の中に入れ、
「どうしたの、どうしたの」
 と、俺の体をチェックしたそうだ。するとなんと、俺の後頭部がぱっくり割れていて、血だらけになっているのを発見したそうだ。それを見たお袋は青ざめちゃって、「どうしよう、どうしよう」とパニックになったそうだが、
 「そうだ、そうだ、とりあえず、とりあえず、何から、何から」
 と、自問自答しながら自分を落ち着かせ、とりあえず、俺の頭にタオルをあてがい、俺を抱きかかえ、
「そうだ、病院だ。とりあえず病院だ。いや、急いで病院だ」
 焦っていたのか、そうブツブツ言いながら、急がなきゃいけないのに家の中を一周してしまったらしい。
 それでも、ようやく俺を車に乗せ、病院に向かって走り出したのだが、お袋にとってこんな大ケガは初めてのことで(もちろん俺にとっても)、しかも後ろの席でビィービィー、ビィービィー、相変わらず大泣きしているもんだから、心配と焦りで信号を無視しちゃったそうだ。
 それで、これじゃマズイと思い、話をすれば冷静になると思ったらしく、
「ねー、どうして、そんななっちゃったのー?」
 焦りながらも、やさしく聞くと、そんなのまるで聞こえてないかのように、とにかく俺は泣き続けていたらしい。
 それでも、「どうして、どうして」と、何回かやさしく聞いてみてもあいかわらずなので、俺がケガをしているのを忘れて、思わず、いつものように、
「あんた! 泣いたって、ダメなんだからね! ちゃんと言いなさい! ちゃんと!」
 そしたら、俺は泣きながらも、
「まさ君と……ブランコ乗ってたら……。まさ君がー、手を放してー、こいだからー、オレもーやったらー、急に、風がー……、風がー……」
 と、そこで、話が止まったもんだから、
「んで! なに! ブランコから落ちたのね!」
 ……俺は最後まで話さなくて済んだらしい。


 そして数十分後、病院に着いた俺は、すぐさま手当をしてもらい、麻酔のかかる中、ベッドで静かに寝ていたらしい。その横で付き添っていたお袋も何だか疲れてしまったらしく、ウトウトしていたら突然俺が、
「お母さーん、おやつまだー?」
 と、言ったらしい。お袋は麻酔のせいで、寝ボケたことを言ってるんだと思って放っておいたら、
「まだー? おやつまだー?」
 と、また言うもんだから、
「どうしたー? おやつ? んー、分かったー。今、用意するよー」
 そしたら、俺が、
「おやつ食べたい。おやつ食べようと思ったらー、けいこちゃんがー、前通ったからー、オレ、オレ、手ーはなしてー、腕組んでー、そしたら、まさ君も同じことするからーたくさんこいだらー、ブランコからー、落ちた」
 それを聞いたお袋は、心配しながらも、ついフイちゃったらしい。そして、
「ねぇー、ねぇー、風はどうしたのー、風はー?」
 俺はモウロウとする意識の中で、
「風はいらないよー、風はー。おやつだよ、おやつー。だって、けいこちゃん家のそばだからー、けいこちゃん来るかと思ってー、ずっとー、こいでたらー、本当に来たからー、オレ、ビックリしてー、手—、放したー」
 当時、俺は、けいこちゃんという、同じ幼稚園に通う女の子が好きだったようで、幼稚園のない休みの日になると、午前中から、近所の公園に行っていたらしい。そして、けいこちゃんに出会えるまで、ブランコをこぎ続けていたことが、このケガによってわかったようだ。
 そして、お袋が、この話をする度に、
「あんた、バカだよねー。けいこちゃん家は、あの公園から、全然遠いんだよー!」
と。

[2007年04月06日]
僕らの知らない小さな僕ら vol.5

070406.jpg これは確か、保育園の年少の夏休みが終わる頃の話だそうだ。
 ある日の夕方、僕は全身ビショビショになって帰って来たらしい。その姿を見た母は、
「あんたー! そんなに濡れて、どうしたの! こんな頭からつま先まで、ビチョビチョにしちゃってー! もー、雨だってこんなにならないわよー! どうしたのー? ねー!」
 そう言って、服を脱がそうとしたそうなのだが、僕はその手を振り切って、明後日の方を見ながら(当時僕は相当しでかしていたらしい)、
「泳いだ! プールで泳いだ!」
 と、スネた感じでいたそうだ。すると、少し開いていた玄関のドアの隙間から、なにやら物音がするので、母さんがゆっくりドアを開けてみると、いつも僕と一緒に遊んでいる友達が、モジモジしながら横一列に、ピシッと整列していたらしい。母さんは、
「そんなとこにいても暑いから、みんな家にはいんなさいよー」
 と、家の中に入れると、みんなを居間に一旦座らせておいて、まだ玄関でビショビショになってスネている僕に、
「なに、ねー。泳いだって、あんた、服のまま泳いだの? ねー」
  そう言われたのだが、まだ明後日の方を向いたまま、
「そうだよ! 泳いだよ! 泳いだのー!」
 と、自分の意見を曲げない様子に、
「じゃあ、あんた。リョウちゃん達(居間に座らせられてる友達)に聞くけど、いいーのー」
 と、母さんが言った瞬間、
「あのー、みんなでー、棒でー、戦ってたらー、プールにー、戦ってたやつがー、落ちちゃってー、それをー、拾おうとー、思ってたらー……」
 と、慌てていると、
「ん〜。だからー、泳いでいたんじゃなくってー、落ちたんでしょ。棒を拾おうと思って、プールに。ちがうの?」
 すると、今度は怒りだして、
「ち、が、う、よー! 泳いだんだって、言ってるじゃねーか!」
 そう言い張るもんだから、
「んー。はい、はい、わかった。泳いだのねー。泳いだんだよねー」
 と、一旦僕をなだめておくと、急にリョウちゃん達のほうに振り向いて、
「ねぇー、ねぇー、大(僕)はプールに落ちたんだよねー。落ちたんでしょ。棒を拾おうと思って。ねぇー、別に怒ってるわけじゃーないんだからね。ねぇー、リョウちゃん達、一緒に遊んでいたんだから、見てたよねー?」
 突然、矛先が自分達に向かってきたので、リョウちゃん達は相当焦ってしまったらしく、つい、その中の一人が、
「大ちゃん、プールに落っこっちゃったんだよー。棒、拾おうと思って」
 と、言ってしまった。だが、その中でも一番仲の良かったリョウちゃんが、
「ちがうよ! 大ちゃんは泳いでた! 泳いでたよ〜!」
 と、言ったとたん、他の連中も(さっきまで「落っこっちゃったんだよー」と言っていた奴も)、
「泳いでたー! 泳いでたよー! 大ちゃんは泳いでたー! 大ちゃんはー、大ちゃんはー」
 さながら、大合唱のように声を合わせて、僕が怒られると思って、子供ながらにフォローしてくれたのだと思う。
 とにかく母さんは、僕が無事だったのでそれ以上、僕にもリョウちゃん達にも、問いつめることはしなかったらしい。
 だが、僕は数日後、また、全身ビショビショになって、帰ってきたらしい。ドアの向こうには、リョウちゃん達の姿は、なかったそうだ。
 母さんが言うには、あの時点では僕は全く泳げなかったらしい。当時通っていたスイミングスクールの先生に、
「他の子は、泳げるようになったんですけどねー。大ちゃんはー……」
 と、言われていたそうだ。
 そして、あの時、みんなが帰った後に母さんに言われた。
「あんた、泳いだ、泳いだって。あんた、あの中で、泳げないの、あんただけなんだからねー。っていうか、あんた、人生で一度もまだ、泳げてないからー」
 と。