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レギュラーコラム BIKKE

[2007年02月17日]
僕らの知らない小さな僕ら vol.2

 これは確か、僕が小学生に上がる少し前の話だそうだ。
 当時の僕は、時間を忘れるくらい近所の友達と遊び回っていたが、家にいる時は甘ったれで、とにかくお袋にベッタリだったらしい。
 トイレにお袋が入れば、すかさずドアの前に立って、
「コンコーン、まだですかー。何やってるんですかー。コンコーン、コンコーン」
 と、声でノックして、トイレに入ったばかりの、まだなんの用事も済ませていないお袋をドア越しに困らせてみたり、家に電話がかかってきた時は、お袋がほんの数分喋っただけで受話器を取りあげては、
「はい、もう、話終わったでしょ、また明日。また明日でしょ」
 と、強引に電話を切らせようとしていたらしい。
 まぁ、その他にも色々あったそうだが、とにかく小学校に上がるのに、このままではいけないと両親は思ったようで(なんせ初めての子供だったので、親は困惑していたらしい)、「我が家の乳離れ計画」ではないが、今まで3人で入っていた風呂を、これからは親父と僕と2人きりで入ることに。とにかくそれをやってみよう、ということになったそうだ。
 そして、2人きりで風呂に入る日が幾日か続いたある日、今まで一緒に入っていたお袋がいないことに僕は“ハタ”と気付いてしまったらしく、親父に、
「ねー、ねー、なんで、お母さん入ってこないのー」
 と、言ったらしい。すると、親父がヒソヒソ話をするような小さい声で、
「あのねー、お母さんねー、恥ずかしいんだって!」
 それを聞いた僕は、
「もー、恥ずかしいって思うヤツのほうが、バカじゃん。もー、もー」
 と、機嫌悪くしてたらしい。でも、そんな僕を親父は上手くあしらい、2人きりの風呂の日々を続けていたそうだ。
 だがある日、ほぼ定時に家に帰ってくる親父が、仕事の都合で遅くなる日があったそうだ。それは、2人きりで風呂に入ることになってから初めてのことで、まぁそうなれば仕方なくお袋が風呂に入れなきゃならなくなった。
 久しぶりに一緒に入るんだから、お袋は俺が喜ぶんだろう(親父から、風呂での俺の発言を聞いていたらしい)と思っていたら、どうやら僕は逆ギレしてて、黙ったまま1点をジーッと見つめたまま湯船につかっていたそうだ。するとお袋が、
「今日はお父さん遅いからー、お父さんの分もアイス食べていいよー」
 それを聞いたとたん、僕は湯船から勢いよく飛びだし、
「エーッ、ホントー? ホントにー!? じゃあ、早く出なきゃダメだー! お父さん帰ってきちゃうよー」
 と、さっきまでの逆ギレは嘘のように、はしゃぎまくったらしい。
 そんな僕のゲンキンさに、お袋はちょっと頭にきたみたいで、風呂場を出ようとしている僕をつかまえて、急に僕のタマキンを握りしめて、
「あんたー! タマタマ、ないわよー! どうしたのー!」
 と、からかったらしい(実際、その時の俺のタマ袋は、ちぢこまっていて、それらしき物が掴めなかったそうだ)。僕はちょっと泣きそうな顔をして、
「お母さん、ごめんなさい。あのー、あのー、さっきー、ヒロちゃん(近所の年上の友達)とかとー、公園のブランコで遊んでてー、そしたらー、ヒロちゃんがー、ブランコから飛んだからー、そしたらー、オレもやったらー、前にあるー、こういう棒(ブランコの柵)のとこに落ちちゃってー、そんときにー、多分(タマを)落としちゃったんだよー。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
 と、途中から、半ベソ状態になってたらしい。それを聞いたお袋は、おかしくて、おかしくてたまらなかったらしいんだが、まだ、僕が何か言いたそうな顔をしていたので、笑いをこらえながら、
「うん、いいよ、どうした?」
 と聞くと、急に僕は後ろを向いて、
「多分、公園にあると思うけどー。でも、もう暗いから、お母さん見てくればいいじゃん」
 そう言うと、一目散に冷蔵庫に向かい、両手に持ったアイスキャンディーの片方を、恐る恐るタマ袋にあてていたらしい。
 そして、この話は僕の記憶にはない。お袋から聞くまでは。

[2007年02月01日]
僕らの知らない小さな僕ら vol.1

 これは確か、俺が幼稚園の年長になったばかりの話だそうだ。
 いつもと同じぐらいの時間に家に帰ってきた僕は、カバンを置き、制服を着替え、外に遊びに行こうとしていたのだが、その日はいつもとなにか様子が違ったようなのだ。その感じを察知したお袋が、
「どうしたの? あんた、なにかあったの?」
 と、僕に聞いたそうだ。そしたら、モジモジ、ソワソワ、しながら、
「あのー、あのー、今日、先生が、あのー、もうお、年長さんになったんだから、お家に帰ったら、今日からママって呼んじゃ、駄目ですよって。お母さんって、呼びなさいって」
 と、言ったそうだ。そしたら、お袋が、
「そうーね。あんたもお兄ちゃんになったんだから、今日から、お母さんって呼びなさい。ねー。先生も、そう言ってたんでしょうー」
 って。
 そしたら、その日、たまたまお袋がクッキーを焼いていて、これだ! と、思ったらしく、
「あんた、お母さんって呼ばないと、クッキー、あげないわよ! 全部、和美(僕の妹。まだ当時、1歳ちょい)に、あげちゃうからねー」
って言ったら、どうやら、その時の僕は「お母さん」って、呼ぶのが恥ずかしかったのか、なんなのか、急に台所から立ち去り、一旦家の外に出て、しばらくしゃがみこんで、庭に敷きつめてあった砂利を積み上げながら、考え込んでいたらしい。
 そんな感じでいたら日が段々かたむきはじめてきて、何を思い立ったのか、(その時のお袋の考えでは、多分、クッキーの焼ける匂いに負けたのだろうと)急に勢いよく家の中に入ってきて、なにかしようと思って、ちょうどしゃがんでいたお袋の背中に僕は飛びついたらしい。お袋は、「なに、なに、この子はー。夕飯の支度もあるのにー」と思ったのだが、一言。物凄く小さな声で、ささやくように、お袋の耳に口をあてて、
「お母さん」
 って、言ったそうだ。その言葉をお袋は聞き取れたそうなのだが、あまりにも小さい声だったのと、突然なことだったので、
「えっ、なーに?」
 と、聞き返したらしい。でも、その時の僕は、どうやら、やっぱり、恥ずかしかったのか、お袋の背中から、「パッ」と離れて、また外に出ていってしまったそうなのだ。
 そして、その後、クッキーが焼き上がるまで、家の外に出ちゃぁー、砂利を積み上げ、家の中に入って来ちゃぁー、お袋のそばまで寄るのに、目を合わせず。また逃げるように外に出ちゃぁー、今度は砂利の山を蹴散らして。また家の中に入って来ちゃぁー、お袋のケツを叩くも、目を合わせず、また逃げるように、、、、、。てなことを、何度も何度も繰り返していたらしい。
 そして、いざ、焼き上がったら、クッキーが置かれたテーブルの前に正座して、なにごともなかったかのように、両手にクッキーを持って、交互にパクついていたそうだ。そして、お袋が夕飯の支度のためにちょっと席を立とうとしたとき、まだ、言葉の喋れない、わからない小さな妹に向かって、
「今日から、ママって言ったら駄目だよ! わかる? 和美」
 と、続けて、
「ママって言ったらねー、クッキー食べられないんだよー!」
 と、言いながら、小さな妹の口に、クッキーを押し込んでいたらしい。
 そして、数年前まで僕は、お袋のことを、お母さんと呼んでいた。そして、この話は、(ママ→お母さん)僕の記憶にはない。お袋から聞くまでは。そして、お袋はこの話の最後にこう言っていた。
「あの頃、西日のキツい家だったけど、あの日の西日は、憶えてるわー」
 と。