ロックンロールニュース


レギュラーコラム ZONONEM

[2004年01月27日]
熟爛漫 vol.7

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 早漏は、将棋には向いていない。

 私は将棋を唯一の趣味とし、余暇のかなりの時間を、将棋のために費やしてきた。

 『週刊将棋新聞』『月刊将棋世界』をはじめ、定跡書、棋士の自伝、「オレたち将棋ん族」といったファン本など、将棋にまつわる刊行物は隅々まで目を通し、日曜朝の将棋講座は十年間欠かさずチェックし、将棋会館での大盤解説会にもこまめに足を運んだ。

 会社では将棋部を発足させ、社内トーナメントや将棋合宿など精力的に活動し、家では、妻が『SEX&THE CITY』のビデオを観ている横で、夫婦生活の時間(と言っても、早漏なのでまったく大した時間ではないのだが)を犠牲にして、コンピューター将棋に打ち込んだ。

 そんなにも、愛して止まない将棋なのだが、私は早漏ゆえ、将棋に向いていないのである。



 先日、行きつけの新宿将棋道場で、手合い掛りが、付けてくれた相手は六十過ぎたオヤジで、かなり酔っぱらっていた。

 ビールの大瓶を傍らに置き、駒さばきが乱暴で、マス目からはみ出た駒をその都度、私が直した。

 私が考え込むと、隣の対局を眺めたり、TVの競馬中継を気にしていた。

 しかし、棋風はまったく堅実で、じっくりと玉を囲い、またそれを組み直したりして、容易には動いてこようとしない。それに合わせて私も、仕掛けを見送り、自陣を整備する。

 攻める方が楽で、何より気持ちがイイのだが、たいていの場合、将棋は先に攻めた方が負ける。

 焦れてはいけない。辛抱が途切れてはいけない。故大山十五世名人のモットー“忍”を肝に命じ、私は相手に追随することに徹した。自分から行くまい、イクまい…と。

「終わだよ、それ、終わ」

 本格的な戦いは、まだ少し先と思っていたのは、またしても錯角(大ポカ)で、現実の局面はすでに敗色濃厚。というより、オヤジからすれば、もうとっくに将棋は終っているらしい。

 投げっぷりの悪い私が、さもまだ勝負の行方は分からないというように、指し手を続けると、オヤジは仕方なしにそれに付き合ってくれた。

 いつまでも投了を言い出さない不憫な早漏を相手に、ビールをお代わり。
 (つづく)


園田敦史
サン出版将棋部(指導顧問は林葉直子先生。合宿などかなり熱心に活動しているにも関わらず、出版社順位戦では万年Cクラス。20代から60代までいる部員8人おそらく全員早漏)部長。