[2006年11月06日]
第11回「ターニングポイント」:阿部寛スペシャル
『ドラゴン桜』:TBS系
2005年7/8〜9/16(金)
夜10:00〜10:54(全11回)
原作:三田紀房、脚本:秦健日子、演出:塚本連平ほか
主題歌:「realize」melody
出演:阿部寛、長谷川京子、山下智久、長澤まさみ、小池徹平、中尾明慶、新垣結衣、サエコ、野際陽子ほか

今から10年以上前、ある役者の大きなターニングポイントを目の当たりしたことがある。1995年10月パルコ劇場、つかこうへい作・演出の舞台『熱海殺人事件モンテカルロ・イリュージョン』。その役者は主人公・木村伝兵衛部長刑事役で狂気に満ちていた。今、旬の役者、阿部寛である。それまでの阿部ちゃんはモデル出身の二枚目俳優で、朝日を浴びながらリプトン紅茶を飲むような、爽やかお兄さんを売りにしていた。カッコイイ、ただそれだけであった。だがその舞台では、そんな爽やかさや格好良さを脱ぎ捨てぶち壊し、時にはオカマ口調でギャグを発し、時には踊り狂い、時には上半身裸で雄叫びをあげる。まるでクスリでイッちゃってるかのようにぶっ飛んでいる。観客は、そのぶち切れた姿に驚くが、しだいに引きずり込まれ、時には爆笑し、時には涙する。かかって来いと言わんばかりに鋭い眼光を向け、スポットライトを浴びる阿部ちゃんは、観客を完全に魅了したのである。この時、デカイ昆虫のような人間・阿部寛は、爽やかなイメージから脱皮し、そしてここからジワジワと快進撃が始まったのである。
桜木「お前ら騙されずに生きていきたければ、勉強しろ!バカとブスこそ東大に
行け!」
(第1話より)
桜木「ケンカに強くなる方法知ってるか?まずは自分の弱さを知ることだ」
(第2話より)
ドラマ『ドラゴン桜』は、元暴走族の貧乏弁護士:桜木健二(阿部寛)が、倒産寸前の龍山高校の再建に乗り出す。その方法とは、偏差値36の落ちこぼれ高校生たちを東京大学に現役合格させ、進学校にすることだった。手始めに特別進学クラスを新設し、6人の生徒を引き入れる。その生徒に、矢島勇介(山下智久)、水野直美(長澤まさみ)、緒方英喜(小池徹平)、香坂よしの(新垣結衣)、小林麻紀(サエコ)、奥野一郎(中尾明慶)。受験のプロの講師を迎え、桜木は東大受験のためのテクニックを伝授するとともに、それぞれターニングポイントに立たされた生徒たちの、人生に対する立ち向かい方も導いていく。
原作が漫画だけに、作りに漫画的なちゃちさはあるが、桜木健二役を演じる阿部寛の存在感が魅力的で、生徒たちを導いていくセリフには決して説教臭くならず、それでいてその言葉が心に響き、ドラマ全体をも引っ張っていった。
桜木「人生にはな、こういう瞬間がたくさんある。思っていたのとは全くちがう
現実。学校でも会社でも恋愛でも、人は皆、自分の都合のいい現実を想定する。
そしてある日突然、それがただの勘違いだったと気付かされる。
己の人間力が試されるのは、こういう瞬間だ」
(第5話より)
桜木「負けた者は徹底的に叩く。なぜなら人間はな、負けた直後や失敗した直後に
しか他人の言葉が身に染みないからだ」
第6話より)
阿部ちゃんは、雑誌「メンズノンノ」でモデルデビュー。創刊号から43号まで連続で表紙を飾り、その記録はギネスブックにも載った。当時、風間トオルと人気を二分し、カリスマモデルとして活躍したのち、俳優デビュー。しかし、求められるのはモデルと変わらない二枚目の仕事ばかりで、その域から出ることが出来ない状態が続いた。そして、演出家つかこうへいと出会う。今まで世間から見られていたイメージやカッコつけていた部分を根こそぎ脱がされていくのである。稽古場では容赦なく怒鳴られ、「阿部な、舞台を見に来る客は、家にいる時のような日常的な人間を見にくるんじゃない。犯されるようなどうしようもない狂気が見たくて、わざわざお金を出してここまで来るんだ。もっと狂え!」と言われたそうである。そこで徹底的に鍛えられ、阿部ちゃんのさまざまな側面が引き出され、今ではモデル阿部寛ではなく、役者阿部寛として君臨するのである。『ドラゴン桜』でも、その演技力がフルに発揮され、第1話の場面では、阿部ちゃんが講堂のステージから生徒たちに向かって罵倒しながらも、一気に彼らを引きつけるシーンが出てくる。長ゼリフをしゃべるその姿はブレのない安定感があり、舞台さながら見るものを釘付けにし、阿部ちゃん劇場と化していた。
桜木「思いどおりに事が運ばないのが世の中だ。必ずあるものが成功の邪魔をする。
何だか分かるか?」
緒方「んなこと知るかよ」
桜木「人間の感情だ」
緒方「・・・」
桜木「つまらねえ意地やねたみ、ひがみ、思い込みがすべてをダメにしてしまう。
そういう感情を飲み込んで目の前の利益を取れるか取らないか、それが勝負の分か
れ目だ」
緒方「取るとか取らねえとか、勝負勝負ってなんなんだよ。そんなに勝つことが大事
かよ」
桜木「勝つことでしか道は開かれねえんだよ。いくらバカにされようがな、世の中
から無視されようが、結果を出せばすべて見返せるんだ。
たった一つ試験に通るだけで、そいつに取り巻く環境が劇的に変わる。
だからよお緒方、一時の感情で利益を失うバカにだけはなるな」
(第8話より)
桜木「甘ったれんな。今回の件はな、最初にキッチリと断んなかったお前が悪い。
だからこのおとしまえは、お前が一人でつけろ」
直美「でも、私がいくらもういいって言っても」
桜木「百回言え。そしてキチンと嫌われろ」
(第10話より)
ドラマでの阿部ちゃんのターニングポイントは、ドラマ『TRICK』(テレビ朝日系)で訪れる。物理学者・上田二郎役で、態度がデカいが怪奇現象を見るとすぐ気絶し、コンプレックスが巨根という三枚目役を演じる。ドラマ自体小ネタギャグ満載で、モデル時代の写真を自虐ネタに使うなど、強烈なキャラを完璧にこなしていた。この役によって阿部ちゃんの認知度が高まり、二枚目から三枚目まで出来る幅広い役者として活躍するのである。
脚本の内容にもよるだろうけれど、三枚目を演じるのはそう簡単なことではない。その人にコメディセンスがないと見てるものはつらい。特に二枚目俳優の場合、三枚目を演じれば演じるほど悲しい存在にしか見えなくなる。ドラマ『弁護士のくず』(TBS系)の豊川悦司がそのいい例で、あらやってしまったのねと、悲しい気持ちでチャンネルを変えることになる。三枚目役にチャレンジするときは、過去に積み上げてきたものが一気に崩れるリスクがあるのである。だが阿部ちゃんは、そんなリスクも軽くクリアして、ロールプレイングゲームのようにレベルを上げていくのである。
今年阿部ちゃんは42歳。そして厄年。しかし、今の阿部ちゃんにはそんなことは怖くもなく、冷えきった夏のドラマの中、ドラマ『結婚できない男』で主役を好演して話題を独占した。何度も脱皮していくデカイ昆虫人間・阿部ちゃんの快進撃はまだまだ続くのである。
オリス(ドラマー)
近況:秋のドラマ編。
『14才の母』(日本テレビ系):物議をかもし出し、話題になった『女王の教室』の路線を狙う魂胆が気に入らないが、とりあえず1話目を見る。思った通りの切り口で、興味が失せる。
『たったひとつの恋』(日本テレビ系):韓流ドラマブームが落ち着いた今、あえてこの路線をやる勇気を買って見るが、やはり設定が古くさい。小道具の使い方は、北川流でうまいけれど。
『嫌われ松子の一生』(TBS系):過去と現在を交互に話が進められていくが、現在の部分は話を停滞させるのでいらない。
『のだめカンタービレ』(フジテレビ系):原作漫画を忠実に描いているせいなのか、人物のキャラクターばかり浮いて、話の展開にドラマ要素が欠ける。しかし、オーケストラでの専門用語が出てくるドラマで、普通説明的になって話を停滞させるが、このドラマはその説明を飛ばして、興味ある人だけ見て、というクールさに好感が持てる。だんだんとハマってきている。
『役者魂!』(フジテレビ系):ギャグはさえないし、話を安易に展開させている。このドラマと似た話で、三上博史主演のドラマ『チャンス!』があったが(落ちぶれたミュージシャンとマネージャーの話)、こっちのほうが全然面白い。
『僕の歩く道』、『Dr.コトー診療所2006』(フジテレビ系):問題なし。
オリス
(ドラマー)
プロフィール
ドラマを愛してくれ……。
ドラマを愛しすぎた男、
ドラマー・オリスが送るドラマ賛辞。
オリスへのドラマ感想などはコチラから。
オリスのコラムに、素敵なイラストを描いているCAPTAIN SMITH(TAIZO)のページはコチラから。
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