[2006年09月15日]
第10回「熱い胸騒ぎ」
『ふぞろいの林檎たち』:TBS系
1983年5/27〜7/29(金)
夜10:00〜10:54(全10回)
『ふぞろいの林檎たちII』:TBS系
1985年3/15〜6/7(金)
夜10:00〜10:54(全13回)
脚本:山田太一、演出:鴨下信一、井上靖央、大山勝美ほか
主題歌:「いとしのエリー」サザンオールスターズ
出演:中井貴一、時任三郎、柳沢慎吾、手塚理美、石原真理子、中島唱子、国広富之、高橋ひとみ、小林薫、根岸季衣、佐々木すみ江、石井均、吉行和子、北村和夫、小林稔侍、室田日出男、岡本信人、水上功治ほか

ドラマ『ふぞろいの林檎たち』は、毎回サブタイトルが付いている。「学校はどこですか?」から始まり、「生き生きしていますか?」「大きな声が出せますか?」「人の心が見えますか?」「胸はってますか?」「友達と続いていますか?」「本当はなにを求めていますか?」「燃え上がるものありますか?」など、普段あまり気にしていないことを、かるく問われることからドラマが始まる。その問いに対して、ドラマでは強いメッセージ色を出すことはない。問いにからめた現実を登場人物によって突きつけられるだけである。だが、見ていくうちにちょっとずつ自分の脈拍が上がり、血の流れが速くなってくる。興奮しているのである。格闘技を観戦しているような大げさな興奮ではない。静かではあるが、熱く心が興奮してくるのである。登場人物の活きてる会話が言葉の格闘技のようで、その血のかよったセリフが心にジャブを打ってくるからである。完全ではない、ふぞろいの登場人物達に打たれるジャブは、完全ではない自分にも打たれるのである。そして、打たれることを求めてしまうほどに、この作品はたまらなく魅力的なのである。
学生A「失礼だけど学校どこ?」
学生B「聞くなよ、そんなこと」
( I:第1話より)
晴江「ほんというとね」
良雄「うん?」
晴江「二度目に逢った時ぐらいかな」
良雄「うん」
晴江「ちょっといいな、と思ったわけ」
良雄「・・(照れて)フフ」
晴江「感じた?」
良雄「ううん・・」
晴江「感じたと思うわ」
良雄「・・フフ」
晴江「でも、陽子が岩田さんと熱くなり出したでしょ?それで、私が、あなたと
じゃ、まるで団体の部屋のわりふりみたいじゃない。もっと、私は、そっちの
三人とは関係ない男性と、恋愛するとか、そういう方がいいと思ったの」
良雄「(変な考えだと思うが、うなずく)」
晴江「目の前に、ちょっといい男性が出てくると、すぐ恋愛しちゃうなんて、安っぽ
い気がするの」
( I:第9話より)
修一「まったく、人と深くつき合わないで暮らせたら、とてもいいんだけど。厄介な
もんだね。それじゃあ 淋しくてたまらなくなる。人間の不幸は、家でじっとして
いられないことから始まるって、誰かが言ったけど、本当だね」
( I:第10話より)
『ふぞろいの林檎たち』は、四流大学に通う仲手川良雄(中井貴一)、岩田健一(時任三郎)、西寺実(柳沢慎吾)を中心に、それぞれの親や、看護学校に通う水野陽子(手塚理美)、宮本晴江(石原真理子)、女子大生の谷本綾子(中島唱子)、ほか本田修一(国広富之)、伊吹夏恵(高橋ひとみ)らが絡む青春群像劇。学歴や容姿など様々なコンプレックスをそれぞれの登場人物が抱えながらも、あがき続ける不器用な若者たち、不器用な恋愛を魅力的に描く。『ふぞろいの林檎たちⅡ』ではその続編の社会人編で、それぞれの職業に対する失望、野望、転職などの悩みを抱え、一生懸命に人生と格闘してる様を描く。約20年前の作品で色褪せる部分はあるけれど、人間の根本的な悩みやコンプレックスはそう変わらず、活きた等身大のセリフには瑞々しささえ感じられる。この作品は、日本のドラマ史上の名作の一つである。
指導官「世の中、やり甲斐がぎっしりつまった仕事なんて、百万に一つよ。公平な職
場なんてものもありゃあしねえ。大半は意味のねえ苦労や、やり甲斐のねえポス
ト、自分には不向きの仕事なんてもんでいっぱいなんだ。だからといって、次々や
めてりゃあ、一生やめて歩かなきゃあならねえ。いいか。他に生き方があるなんて
思うなッ。世の中、甘い汁はねえ。今の仕事で力をつけるしかねえんだ。しっかり
腰をすえて、意味のねえ苦労でもやり甲斐のねえ仕事でも、黙って立派にやり通す
人間になるんだ」
( II:第1話より)
良雄「辞めて、どうするっていうのさ?自分にピタッとした仕事なんて、そうそうあ
ると思えないし、他の仕事つけば、またその仕事がたまらなく嫌になったりして、
転々と仕事かえるなんてことになるんじゃないかな。もう少し我慢してれば、
また別の気持ちになるかもしれないし、出来るだけいまいるところで頑張った方
がいいんじゃないかな?」
晴江「・・・・」
良雄「勿体ないよ」
晴江「最低」
良雄「え?」
晴江「そんなことしかいえないの」
良雄「そんなことって」
晴江「そんなことなら、五十や六十のオバンだっていうわ」
良雄「そういうけど・・」
晴江「そんな常識的なことしかいえないの?」
( II:第2話より)
実「お前はそういう奴なんだ。俺が決定的にお前より劣っている時は、親切でやさし
くて友達だったりするけど、ちょっとでも俺がお前をぬきかかったりすると、
さーっとしらけて、人の足をひっぱろうとするんだ」
( II:第5話より)
この作品が作られたきっかけは、その当時大学生がテレビドラマを見なくなったという話から、それでは大学生を主人公にして、彼らが見てくれるようなドラマを作ろうということから始まったそうである。そして脚本家の山田太一は、いわゆる有名な一流大学を取材し、学生達に話を聞いた。しかしどうも面白みがない。一流大学だけあって挫折感がなく、人間としての影がない。それで今度は三流四流といわれる大学へ行き、彼らの話を聞いてみると、それぞれにコンプレックスを抱えていて、同じ人間なのに三流四流というだけで、自分は社会の主流を歩いていないという感じを受け、彼らの本音に心をつき動かされたという。人間の面白さからいうと、三流四流の学生のほうが面白く、それで彼らの様な学生を主人公にしたドラマを作ったそうである。だから、彼らの不器用だけれど真剣に人生と向き合おうとする真っすぐな気持ちが、そのままドラマに反映され、見るものへの心を打つのである。
相場「それじゃ駄目なんだよ。自分を殺したり俺に合わせたり、逃げようとしたり、
そんなことしてたら、いつまでたっても平社員でいるしかねえんだよ」
良雄「はい」
相場「お前の個性をぶつけて来いよ。昼飯行きましょ!そっちから誘うくらいのこと
してみろよ」
良雄「はい」
相場「はい、じゃないよ。そういわれたから誘うっていうんじゃ仕様がないだろう」
良雄「はい」
相場「はい、じゃないっていってんだろ。お前はいっつもなんか他のこと考えてる」
良雄「考えてません」
相場「考えてるんだ。この頃の若い奴は、いっつもどっか上の空で、他のこと考えて
るんだ」
良雄「そんなことないと思うけど・・」
相場「裸になれよ!裸になって、ぶつかって来いよ!」
( II:第7話より)
佐竹「あんた、うちとの取引が出来なきゃ道ばたに倒れて、飢えて死んじまうってい
うんじゃないんだろ?」
実「そりゃそうよ」
佐竹「だったら、後輩に、そんなこと頼むなよ」
実「いや」
佐竹「揉み手して卑屈に頼むなよ」
実「・・・・」
佐竹「四流大学出たって、そのくれェの誇りは持ってくれよ。俺は涙が出るぜ。
先輩が、これっぱかりのコネにすがって、仕事をくれの商売をさせろの、そんな
に職業ってえのは、みじめなもんなのかよ?そこまでやんなきゃなんねえのか
よ?」
( II:第8話より)
健一「無理に働くことはないだろ。子供淋しがらせて、金稼いで、なにになるんだ」
陽子「じゃあ岩田君、子供のために、会社やめる?」
健一「女と男はちがうさ」
陽子「同じよ。女だって一生懸命、資格とて、少しずつ仕事おぼえてやって来たの
よ。それ、子供のために、やめろっていわれて平気だと思う?」
健一「母親になりゃあ子供のこと考えるの当たり前だろ」
陽子「そりゃそうよ」
健一「母性愛ってのは、ないのかよ?」
陽子「あるわ。でもそれに溺れたくないの。子供のための世界や夫のための世界だけ
じゃなくて、自分のための世界もちゃんと持っていたいの」
( II:第12話より)
『ふぞろいの林檎たち』は、シリーズとしては現在パート4まである。だが今回パート2までしか取り上げていない。パート3からは別物になってしまったからである。続編であることは間違いないが、パート3の第1話を見てすぐに違和感を感じてしまった。今までの『ふぞろいの林檎たち』ファンもたぶん首をかしげたであろう。実は脚本家の山田太一でさえ、出来映えのあまりのひどさに放送中止を求めたほどなのである。演出の世代交代があったのかよくわからないが、全体の空気感がまず違っていたし、特にショックだったのは、見せ所がある役で出ていた良雄の兄役:耕一の小林薫が他の役者に代わっていたことである(パート4では、その役者が不評だったのか、その兄は亡くなっていた)。例えるなら、『北の国から』の草太兄ちゃん役が岩城滉一からベンガルに代わるぐらいのギャップがあったのである。思い入れがあるドラマでは、出演する役者にも同じくらい思い入れがある。だから、シリーズ化になった場合、他の役者に代わっていたら一気に気持ちが冷めてしまう。役者が代わって許せるのは、寅さんのおいちゃんぐらいである。
今また、『ふぞろいの林檎たち』パート5を作る動きがあるという。もうこれ以上やらなくていいんじゃないのか、もうこれ以上名作と呼ばれたものを薄めるようなことをしなくていいんじゃないのか、とボクは願い思うのである。
オリス(ドラマー)
近況:映画『NANA2』でも、宮崎あおい、松田龍平の降板があった。ヒット作品だけに、交代する市川由衣らのプレッシャー、心中お察しします。秋の10月からのドラマでも、シリーズ作品がある。『Dr.コトー診療所2006』(フジテレビ系)と草なぎ剛主演の僕シリーズの最終章『僕の歩く道』(フジテレビ系)。どちらも人気作品だっただけに、期待も高まる。どうか面白い作品でありますように。
オリス
(ドラマー)
プロフィール
ドラマを愛してくれ……。
ドラマを愛しすぎた男、
ドラマー・オリスが送るドラマ賛辞。
オリスへのドラマ感想などはコチラから。
オリスのコラムに、素敵なイラストを描いているCAPTAIN SMITH(TAIZO)のページはコチラから。
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