[2006年08月11日]
第9回「がんばれ!坂元ちゃん!」
『海が見たいと君が言って』:フジテレビ系
1994年9月26日、夜9:00〜10:24
脚本:坂元裕二
演出:石坂理江子
出演:萩原聖人、坂井真紀、戸田菜穂、榊原利彦、岡安泰樹、秋田宗好、
菅野美穂、豊川悦司ほか

がんばれ!坂元ちゃん!といっても、坂元ちゃんって誰なんだと思うかもしれないけれど、タンクトップ坂本一生でも、おかまメガネ坊主坂本ちゃんでもない。脚本家の坂元裕二である。で、何で「がんばれ!」かである。もう充分頑張ってるし、今年に入ってフジテレビの月9ドラマ『西遊記』、そして『トップキャスター』と連続で脚本担当するという活躍ぶりである。逆にお前ががんばれと言われれば、返す言葉もない。それでも言いたい。なぜなら、かつて『海が見たいと君が言って』のようなドラマを、独特な世界観でのびのびと書いていた坂元ちゃんなのに、今では何かヤラされてる感が否めないからである。だから言いたい。日本中がブルーユニホームで、がんばれ!ニッポン!と叫ぶ中に紛れながらでも、ボクは一人で、がんばれ!坂元ちゃん!と叫びたいのである。
英二の声「熊に道を尋ねられると、誰かが恋に落ちる・・・そんなジンクスあっ
たっけ?」
籐子「今年の夏ってさあ」
英二「ん?」
籐子「なんか白くない?」
英二の声「甘い甘い君の、角砂糖、あんドーナツ、萩の月、テキーラサンライズ。
透き通った君の、窓ガラス、雨上がり、ピアノ、南アルプス天然水。
可愛い娘がいるだけで、世界の風景はあっと言う間に変わる。
可愛い娘と加山雄三さえあれば、世界は平和に違いないね。
君と加山雄三がこの世界のすべてならいいのに・・・」
『海が見たいと君が言って』のあらすじ。猫が階段を登ると、悪いことが起きる。そんなジンクスを信じる野々村英二(萩原聖人)。千葉の海の傍に住んでいるけれど、湘南ボーイを気取り、加山雄三をこよなく愛する。ある夏の日、猫が階段を登るのを目撃した英二のもとに、花の配達のサービスで、熊のぬいぐるみを着てペスパに乗った朝倉籐子(坂井真紀)が道を尋ねにやってくる。またその日、英二の幼なじみ・葉村水穂(戸田菜穂)が久々に東京から帰ってくる。だが、楽しみにしていて再会やデートも、いつもと違い、心のズレを感じる英二。そんな英二につけ込むように、どこからともなくやって来る籐子。一緒に過ごすことが多くなり、英二をピンチに導いていく。英二と籐子との恋、そして英二と水穂との間のズレが縮まり、籐子が再び熊のぬいぐるみを着てペスパで街を去っていくまでを、活き活きとしたセリフで、みずみずしく描いていく。
英二「猫さ、よく考えるとさ、ここの猫って、階段登ってるところしか見たこと
無いんだよね」
籐子「あ、そう」
英二「いつ見ても、どの猫もさ、いつも階段駆け上がってるだけなんだよね。
ってことはさ、今頃ここの屋上には、猫が百匹とか千匹とかになってるん
じゃないかな?」
籐子「全部集まって、ライオンとかになってるかもよ?」
英二「ありえるよ・・・」
籐子「暗いところで、こっそり煙草吸ってさ、小さな火が、ぷすぷす鳴ってるの
って好き」
英二「うん」
籐子「宇宙の果てからも、この灯が見えるような気がする」
英二「金星とか、木星とか?」
籐子「うん、誰かに見られてる気がする」
このドラマは単発ドラマで、ストーリーを重視した連続ドラマでは描けない、坂元裕二独自の世界を自由に書いている。のちに、このドラマを元にして映画『ユーリ』(いしだ壱成、坂井真紀出演)を自ら監督もしている。確かにゴールデンタイムの連続ドラマは、ストーリー重視であり、視聴者重視である。自分の好きな世界を書ける時間帯ではないかもしれない。だが、そのために自分を半分殺し、小手先だけで見せる小さくまとめた作品は、全然活き活きしてないし、『海が見たいと君が言って』のようなドラマを知っている以上、見るのもつらい。ドラマ『トップキャスター』を見ても、前に放送されたドラマ『美女か野獣』(03年)の二番煎じとしかいいようがない。どうしたんだ!坂元ちゃん!と言いたくなるのも当然だ。けれども「好きなものだけ書くなんて、そんなにこの世界甘いもんじゃないんだよ!」と言われるかもしれない。それでも、自分の世界で勝負して、逆に視聴者を導いていくことは出来ないのだろうか。
籐子「あ、そう。じゃあ交渉決裂ね」
英二「無理だよ」
籐子「君、言ったじゃない、加山雄三はみんなから愛されて、みんなを愛してる、
素晴らしい人だってさ?頼めば歌ってくれるんじゃない?」
英二「それ以外なら何でもするから、デコピン五万回でも、タバスコ一気飲みでも
何でもするから」
籐子「君に条件を変更する権利は無いの。やるかやらないか、どっちかよ?
駄目だったら」
英二「駄目だったら?」
籐子「(英二の肩に手を置き)彼女のこと好きなんでしょ?頑張れよ、何も努力しな
いで女の子が手に入ったら気持ち悪くて拒食症とかアトピーになっちゃうわよ?」
英二「そうかな・・・」
籐子「そうよ」
英二の声「そうさ、本当のところは誰にもわからない。本当のところはね。ただ、
ただ一つ確かなことは、あの日、夏の一番最後の日、海が見たいと君が言って、
そして、熊は俺にキスをした」
坂元裕二は、第一回フジテレビヤングシナリオ大賞を19歳で受賞。柴門ふみ原作のドラマ『同・級・生』(90年)や大ヒットドラマ『東京ラブストーリー』(91年)を執筆。その後、『二十歳の約束』(92年)や『翼をください!』(96年)、『愛し君へ』(04年)、『ラストクリスマス』(04年)などがあるが、連続ドラマの場合、坂元裕二に魅せられるのは、ストーリーよりもセリフである。現実から2、3センチずらした詩的なセリフには、心をときめかせる力があるのである。映画『世界の中心で愛を叫ぶ』でも脚本に参加して、そのセリフを発揮させている。だが、最もそのセリフを発揮出来るのは、坂元裕二独自の世界で描かれた作品なのである。宮藤官九郎でも三谷幸喜でも野島伸司でも、独自の世界で作品を描き、視聴率がどうであれ、それぞれの世界観を好み、支持する人達がちゃんといるでないか。だから、坂元ちゃんにも、プロデューサーの大多氏を説得して、自分の世界で勝負してほしいのである。がんばれ!坂元ちゃん!負けるな!坂元ちゃん!
オリス(ドラマー)
近況:7月からのドラマでは、月9の『サプリ』(フジテレビ系)は何を描きたいのか、どこを描きたいのかゴチャゴチャしていて、精神的サプリ(栄養素)になるはずが、ストレスに変わる。『下北サンデーズ』(テレビ朝日系)は期待したぶん、中途半端で残念な結果に。11時台でマニアックにした方がよろしいかと。それにしても、フミヤはさむい。土9の『マイ☆ボスマイ☆ヒーロー』、波はあるけど、見たくなります。今回の大穴は、単なる時間埋めのドラマと思っていたら、毎週楽しみになるほど面白い『結婚できない男』。さすが阿部ちゃんです。
オリス
(ドラマー)
プロフィール
ドラマを愛してくれ……。
ドラマを愛しすぎた男、
ドラマー・オリスが送るドラマ賛辞。
オリスへのドラマ感想などはコチラから。
オリスのコラムに、素敵なイラストを描いているCAPTAIN SMITH(TAIZO)のページはコチラから。
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