[2006年01月16日]
第5回「涙くん、こんにちは!」

『僕の生きる道』:フジテレビ系
2003年1/7〜3/18(火)
夜10:00〜10:54(全11回)
脚本:橋部敦子 演出:星護ほか
音楽:本間勇輔
主題歌:「世界に一つだけの花」(SMAP)
出演:草なぎ剛※、矢田亜希子、谷原章介、浅野和之、鳥羽潤、菊池均也、綾瀬はるか、浅見れいな、内博貴、市川隼人、森下愛子、小日向文世、大杉蓮ほか
※「なぎ」は弓へんに剪。
映画でもドラマでもドキュメントでも本でも、お涙頂戴を全面に押し出してるものは、まず見ない。ていうか、嫌いである。そういうこともあって、テーマが死を扱うドラマ『僕の生きる道』は、当然のようにボクのチェックリストから外されていた。見ていなかった。
「えっ!!!見てないの?」。ある日、ボクの目の前で雑誌を読んでいた友人が、わざと驚きの顔をこちらに向けて叫ぶ。しまった!いつもなら、見てなくても、見ている振りをし、あとでこっそりチェックする姑息なボクだが、この時ばかりは気を抜いていた。そんなボクを知っている友人は、嬉しそうにタバコの煙をくゆらしながら子供を諭すように言う。「あのね、話は淡々と進んで思ってるような感じじゃないから、見ておいたほうがいいよ」。動揺していたボクは「なるほどねえ」と、何がなるほどなのかわからないが、とりあえずクールに装い答える。が、そんな動揺を見抜いてる友人は、勝ち誇った憎らしげな顔で、読んでた雑誌に目を戻しつつ最後に言い放った。「まあ、なんにしても、甘いお方だ」。甘いお方、甘いお方、甘いお方・・・。その言葉がボクの頭の中をグルグルグルグル駆け巡る。ちびくろさんぼのトラが、グルグル回ってバターになったように、甘いお方も甘い小倉になるくらい頭の中をグルグル回る。甘い小倉は好きだが、甘いお方はイヤだ。すぐにチェックしなければ。そして少しでもつまらなかったら、その時言われた以上にイヤミたっぷりな言葉をお見舞いしなければ。そんな人間の小ささがわかるような事を考えながら、早速レンタル店に向かう。置いてある目的の棚を見る。ない!全四巻貸し出し中だ。いきなり出鼻をくじかれた。返却されるまで毎日通うしかない。こんなに通うのは『ツインピークス』以来か。そして、10日目。まだ全巻貸し出し中だ。そこで気付く。この作品は1週間レンタルになってるから、10日の間に次の人に借りられている。どうする。どうも出来ない。足繁く通うしかない。そして、20日目。まだ全巻貸し出し中だ。なんなんだ、このタイミングの悪さは。ひょっとして一人の奴が大延滞中なのか。返却されたら店から連絡してもらう手もあるが、ここまできたらそんな手ぬるい待ち方はしたくない。あの棚から手に取って借りたい。長期戦も覚悟だ。返却待ちストーカーを続けるしかない。そんなふうにして、1人で無駄に盛り上がり、一ヶ月目の夕方。ある!今いる位置から、その目的の棚まで3メートルはあるが、確かに見える。返却されてる。小走りでその棚まで行き、万引きするかのようにその棚から全巻むしり取る。そして小走りでカウンターに向かう。御利用泊数は?と店員に聞かれるが、もちろん1週間だ。当然だ。ここまで待ったんだ。たとえ3日で見終わろうとも、1週間たっぷり借りてやる。このあと返却待ちをしている客が大勢いようとかまわない。なんなら無理にでも大延滞してやろうか、と意地の悪いことを考えながら家路に着く。で、さっそく見る。確かに話が淡々と進む。が、号泣。で、朝。ゲッ!全巻見てしまった!1週間たっぷりかけて見るつもりが、半日で見終わってしまった。しかしなんだ?このすがすがしい気持ちは。なんなんだ?この晴れやかな気持ちは。号泣した時の涙くんが、ボクの汚れた心を、きれいに洗い流してくれてるじゃないの。よし!今日返そう。1週間借りるつもりだったが、今日全巻返却しよう。次の人が心待ちにしているかもしれない。ペイ・フォワードだ。甘いお方であろうとかまわない。
単純ですが、人って半日で変われるんですね。ドラマ『僕の生きる道』は、そんな自分の涙くんに出会える作品です。
秀雄「ここに一冊の本があります。この本の持ち主は、この本を読みたいと思ったの
で買いました。しかし、今度読もう今度読もうと思いつつ、すでに一年がたちまし
た。この本の持ち主は、これを読む時間がなかったのでしょうか?たぶん違いま
す。読もうとしなかった。それだけです。その事に気付かない限り、5年たって
も、10年たっても、持ち主はこの本を読むことはないでしょう。受験まで、あと
一年です。みなさんの中には、あと一年しかないと思ってる人もいるかもしれませ
ん。でも、あと一年しかないと思って何もしない人は、5年あっても10年あって
も、何もしないと思います。だから、一年しかないなんて言ってないで、やってみ
ましょう。この一年、やれるだけの事をやってみましょう」(第2話より)
高校教師の中村秀雄(草なぎ剛※)は、健康診断の再検査でガンが判明し、余命一年と宣告される。その宣告は、無難で守りに入った人生を歩んできた秀雄とって、今まで生きてきた28年間を後悔させ、絶望的な思いにさせる。自虐的に陥る秀雄は、それでも医師・金田(小日向文夫)の助言もあり、改めて自分と向き合い、見つめ直し、そして死と向き合う覚悟をする。それまでの28年以上に長い一年を、最後の瞬間まで前向きに生きていく。その前向きに生きる姿に、秀雄と結婚を決意するまでになる同僚教師・みどり(矢田亜希子)や、他の教師、生徒たちは、次第に心を動かされていく。死という重いテーマを、生という前向きなテーマに変え、クサくならず淡々と描いている。
秀雄「1年って、28年よりも長いですよね」
医師「・・・そうだよ」(第2話より)
秀雄「将来の事を考えるのは、とても大切な事です。でも将来の事を考えすぎて、
今を見失ってはいけないんじゃないでしょうか」(第5話より)
なぜ淡々と描いているのに泣けるのか。脚本家・橋部敦子は言っている。「誰もが自分に照らし合わせ考えられる」と。確かにそうである。よくある生死に関わる病気の、かわいそう的なドラマは、所詮は他人事で客観的に見てしまうが、ドラマ『僕の生きる道』は、何気ない日常で秀雄の心情を描き、自分だったらどうだろうと照らし合わせながら見てしまう。そして客観的な見方をさせない、出来るだけクサさを排除した演出も効果を発揮。秀雄が母親に余命一年を電話で告白するシーンなんかは、声は無音のまま、音楽と役者の演技だけで見せる。またその母親も、有名女優ではなく、どこにでもいるようなお母さん的な女優を使っているので、よりいっそう身近に感じられる。このドラマは、トータル的にもディテール的にも、すべてにおいて計算され、狙っていることは間違いない。だがその狙いは、確実に僕の心の的を射抜いていることも間違いない。
医師「ねえ、こういう言葉、知ってる?ある人がこう言ってるんだ。たとえ明日、
世界が滅亡しようとも、今日私はリンゴの木を植える」(第7話より)
みどりの父「どうして死ぬとわかってる男と結婚するんだ?!」
みどり「死ぬとわかってる男は彼だけじゃない。世の中の男全員よ!」
(第8話より)
このドラマで注目すべき俳優は何人かいるが、その中でも当然一番は草なぎ剛※。草なぎ剛※は、このドラマで確実に株が上がった。そして、SMAPの単なる頭数そろえのための一人ではなく、役者・草なぎ剛※として確立させた。次に、カメレオン的な役者、日本のケビン・スペイシー、医師役の小日向文夫。この人なくては、このドラマが成立しないぐらい重要な役どころであった。最後に、最も個人的に注目してるのが谷原章介。雑誌メンズノンノ出身で、初代メンズノンノの阿部寛に負けず劣らずの活躍である。大体がクールでインテリでイヤミな二枚目、当て馬的な脇役ポジションを担っている。このポジションは、いつの時代のドラマでもいるのだが、今はまさに谷原時代といっていいだろう。女の子に、谷原章介をどう思うか聞くと、「えー、なんかちょっとやだ」っていう答えが2人に1人は返ってくる。それを聞いた谷原章介は多分こう答えるだろう。「それでよし!」と。それこそ役者冥利に尽きると思う。1月からのドラマ『小早川伸木の恋』(フジテレビ系)でも、そのポジションの魅力を十分発揮することであろう。
そんな魅力ある俳優陣に出会えるドラマ『僕の生きる道』。そして、自分の心を洗浄してくれる涙くんにもきっと出会えるでしょう。その時は、御挨拶。涙くん、こんにちは!
※「なぎ」は弓へんに剪。
オリス(ドラマー)
年末、NODA・MAPの芝居、『贋作・罪と罰』を観に行きました。松たか子、やはり舞台映えしますね。テレビで見るよりも魅力的でした。大晦日、紅白歌合戦を見ました。グループ魂、アウェーなのに完全に舞台を自分達のものにしていましたね。阿部サダヲ、最高でした。
TAIZO(パッションイラストレーター)
セツ・モードセミナー卒。
雑誌等中心に地味にジミヘンに活動中。

























