[2010年07月20日]
第29回 「喜楽」
「長沢くんって、渋谷の渋に似てる!!」
学生時代よく人に言われた。
たぶんキャスター(たばこ)のCMの藤竜也を意識して、はやらかしていた口ヒゲと、凶悪な角度のまゆ毛とのシンメトリーな図柄からと思われ。
まあ、字に似ているというのもなかなか無いのでよしとしていた。
月日は流れ、月曜日のある朝、渋谷に行きたくなった。
ほぼ日課のように中古レコード店を3年以上くまなく探し続けていたデトロイトテクノの名盤、VIRTUAL SEXのCD(3Dメガネ付き)が渋谷のディスクユニオンにあるとネットで知り、見に行くためだった。
感慨深く 「おおーっ、これか!?」 と実物を手に取り、しばらくジャケットを焦げるほど鑑賞し 「ふむ、ふむ」 とていねいにCDを棚にもどした。
凶悪なまゆ毛のくせにロマンチストなアタシは、“思いもかけない” という偶然をMUSICとの出会いに求めてしまうので、ネット検索で探し当てたという姑息な感じを手放しで喜べなかったからだ。
CDやレコードを無駄に持てば持つ程、不感症気味になり、めったな事では感じられなくなってしまっている。 どっかのすずらん通りを歩いている時など、八百屋のAMラジオからかすかに聞こえてくる “思いもかけない” ロッドスチュアートのマギーメイとかが、こめかみ辺りに突き刺さったりするのです。
というのは嘘で、本当は5800円もして高かったからだ。
できれば郊外の古本屋の300円均一のワゴンセールとかに間違って入っていた、みたいなのが一番望ましい(セコいぜ)。
というわけで、VIRTUAL SEXをしばらくディスクユニオンに寝かせる事にして、タワレコ、レコファンと軽く流し、シスコへ行くとつぶれていた。 ツェー。
そしてお気に入りのシスコ裏の3・4(sun sea)というエスニック調のMUSICを流す喫茶店に行くと、これまたつぶれていて、店舗跡の目を覆いたくなるようなHIP HOP調のスプレーペイントの落書きが、面影も無いほど無惨だったので思わず笑ってしまった。 ハハハッ。
渋谷はちょっと行かないとコレだ。
浦島太郎な気持ちになり、あすこなら大丈夫だろうと道玄坂を上り、百軒店へ向かった。 百軒店というのは、109の裏あたりにある昭和の闇市の匂いが漂う古ぼけた一角のことで、あまりのいかがわしいワイルドさに、用のない一般の人は近寄ることがない。
その百軒店に昔からある名曲喫茶ライオン。 存在は知っていたが、今まで一度も入ったことがなかった。
「真のHi Fi 立体音響 冷房完備 ステレオ音響完備(帝国随一を誇る)」
とチラシにある。
思い切ってドアを開けると、古き良き昭和の格調高い洋風木造建築の店内には人もまばらにいて、何かから逃れるようにそれぞれがMUSICと向き合っている。
キョロキョロ見回していると、麻雀放浪記に出てくる外国人クラブにタイムスリップしてしまったようなイメージのパーツが、目や耳や胸に次々とゆるく響いてくる。
淡い照明、木のテーブル、ヴェルヴェットのイス、建物の匂い、天然汚しの入ったポスター、壁、天井、薄明かりのトイレ、2階もある・・・階段のきしむ音・・・。
すべてがアンティークというか昔のまま保存されている。
ここはどこだ?
ストレンジデイズ。
DJブースみたいなのがあり、ホーチミンのTシャツを着た店長らしき青年がアナログLPのクラシックをかけ、一曲終わるごとにマイクで曲紹介している。 ふと中学生の時の放課後に音楽室でやってたレコード・コンサートを思い出していた。
なんだろうねぇ~、アナログの音ってなんか想像力が膨らむっていうか、鳴ってる実感っていうか、一曲ごとに人がわざわざ針置いてかけてる “もったいつけ具合” っていうんですか? あのプツッ プツッ プツッ ていう音すら気の利いたイントロのよう~。
クラシックはわからないけど、突然知ってる曲が流れた。 これかっこいい!
青年に聞くと、ヴォーンウィリアムズ作曲の「グリーンスリーヴス」の主題による幻想曲と、紙に書いて教えてくれた。 こういう出会いが好きさ。
そんな渋谷は、今でこそ東急と西武が目立つオシャレな若者の街だが、その昔は代々木公園からNHKあたりが軍事施設になっていて、戦前は ”帝国軍人たちの街”、戦後は ”進駐軍の米兵の街” として栄え、そんな軍事カンケイのひとたちが夜な夜な通い続けて賑わっていた盛り場の中心が百軒店で、今の渋谷の勢いの源だったのです。
(ブラボー川上著 「まぼろし闇市をゆく 東京裏路地<懐>食紀行」 / ミリオン出版刊 より)
最近やけに、そういう黒光りした闇市的な匂いの場所が気になる。
なぜか胸の奥がざわざわっとなる。
単に、きたなシュランの影響かもしれない(笑)。
現在(いま)だからそういう場所が面白く感じるのかもしれないが、徐々に徐々に確実にそういう風景が東京から消えて行っている。
闇市は絶滅の危機にある。(銭湯も)
どうするすべもない。
そのうち何も感じなくなるような気もする。
そしてそういう場所には、必ずといっていいほど大陸的なウマいラーメン屋がある。
というようなことを、喫茶ライオンのテーブル席にて書いていて、1時間以上経つがイヤな顔ひとつされないこの店の居やすさはなんなんだろう?
しかもコーヒーを運んできた時にいっしょに灰皿を出してくれた。
「え?いいの?」 今ではそんな心構えになっている自分が哀しい。
たばこ吸いは追いやられ、近頃じゃ麻雀屋でさえ、たばこを吸うと、隣のヤツに咳払いされる世の中になっちまった。
流れには逆らえませんのぉ~。 ツェ~。
であるからして、メンテナーであるアタシは、このあと流れ的にはすぐそばの道頓堀劇場の向かいの喜楽のラーメンを食います。 きまりです。
行く前から、もうウマい喜楽は、60年も前から百軒店の移り変わりを見守り続けて来た渋谷のご当地ラーメン的存在だ。
恵比寿の「香湯ラーメンちょろり」や、六本木の煙突で有名な「かおたんラーメン」もこの店出身です。
揚げネギペーストを加えた香ばしい台湾風ラーメンは、シッコシコの中太麺とシャッキシャキのモヤシの食感が絶妙にマッチしていてグングン、グングン止まらない。
いつ行ってもウマいのは、時代に合わせてわからないように味の微調整をしているからだという。
曲がオペラになったところでたばこを消し、ニヤけたツラで席を立ち店長らしき青年にお礼を言い、500円玉をいいひと風に渡し、『ワンコインでこの充実度。勝った。』 などと思いながら、クラシックの流れる店内に背を向けドアを開けると、外はまだピーカンの真昼間だった。
ムハーッ(汗)。
それにしても、このあたりを歩いてる全ガールズがみんな肉体労働系に見えてしまうのは、男子の悲しい性(ウォウウォ!)なのかね?
そんなこんなでBGMは、あの時代に流れていたドリス・デイの「センチメンタルジャーニー」でお願いします(伊代じゃないでぇ~)。
長い間麻雀してるけど、いまだ九連宝燈は一度もあがったことがありません。
あがると死むでぇ~っつーかんじな夏。
名曲喫茶ライオン
東京都渋谷区道玄坂2-19-12
03-3461-6858
11:00~22:30
無休
コーヒー 500えん
喜楽
東京都渋谷区道玄坂2-17-6
03-3461-2032
11:30~20:30
休み 水曜
席27席
JR渋谷駅より徒歩5分
Pなし
中華麺 600えん
人間・長澤一浩
(メンテナー)
プロフィール
麺、面、綿、免、men……メンにこだわる、人間・長澤一浩がおくるザ・メンズワールド。
人間・長澤へのメン情報などはコチラから。
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