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レギュラーコラム 高橋毅

[2004年03月08日]
vol.15 検疫

 
これを購入するまでは、こんな言葉を気にした事もなかった。

売春が横行している今、玄人よりむしろ素人の方が危ない!? ってそれは検診か?

なんてまぁいいとして、外国から輸入してくるものに害虫や病原菌がついていないかチェックする。つまり安全かどうか調べることが『検疫』なのです。



先日仕事の用事でとあるショップへ立ち寄った。いつもの要領でレジ前に借りるための洋服を持って行き、店長と世間話で盛り上がっている最中『カラッ、カラッ、カラカラッ、カラッ!!』とそのシチュエーションでは想像もできない音が聞こえてきた。音の正体はレジの横に置いてある、アクリルケースに入っている豆。3センチ立方程のケースそれぞれに豆が6個入っているものが小さな段ボールの箱にずらりと並んでいた。でもなんで豆からこんな音が? 不思議に感じたボクは店長に質問。



「コレって何すか? 」

「あっ、あっ、コレですか…」

さっきまで世間話をしながらリース伝票をせっせと書いていたのと同じ人とは思えないようなレスポンス。

「えっ、メキシコから輸入していて……。」

「へぇ〜、メキシコからですか。…ですからコレは何? なんでマメが動いてるんすか?」

「えっと…中に蛾が入ってるのかなぁ、なんて…」

顔が硬直しているようだ。……、蛾? まさか!!

「が…蛾ですか? この中に? だってコレってどう見てもマメじゃないっすか?」

さらに聞いた

「じゃあコレって春になったらマメから孵化するんすか?」

「大きな声では言えないですが、まぁ、そんな感じかなぁ…なんて」

マジ? マメの中に蛾が入ってんのか?

「な、なんて名前の蛾なんすかコレ!!」

「正式な名前はちょっとアレなんだけど、あちらではちょっとした有名品で…」

相変わらずはっきりしない答えにシビレが切れた。とにかくゲットしなきゃ!! チェゲラ魂に火がついた。

「コレ下さい!! いくらですか?」

「値段ね…じゃあ1個200円ということで」

安いのか高いのか?

「8個下さい」

なぜだか8個も購入。



家に帰ってネットで検索したら、コレはどうやら〈Mexican jumping beans〉という種子で、日本名は〈メキシコトビマメ〉というらしい。メキシコ産の野草の種子に、ハマキガの1種が入ったもので、中のハマキガが動くたびに種子も連動して動く。見た目は動くはずのない種子が勝手に動きだすので、まるでポルターガイスト現象でも起きているかのような感覚に陥る。この固い種子が動くたびにアクリルのケース当たって例の『カラ、カラ』な音がするのだ。不思議でたまらなかったが、ひよこが生まれる前に殻をつつく様な行為と同じだと考えれば落ち着く。当然だが孵化するらしい。



ちなみに日本の検疫では絶対持ち込めない「輸入禁止品」と、検査を受けて合格すれば持ち込める「輸入検査品」 の2種類ある。店長がはっきり答えなかった理由はこの〈メキシカン・ジャンピング・ビーンズ〉なるプロレスの技の名前の様な不思議な種子は、どちらもNGだからなのだろう。確信犯。孵化したらどんな弊害を日本にもたらすのか、考えただけでぞっとする。触らぬ神にたたりなしである。だがもう遅い。



後日、ボクの携帯にいとこからメールが届いた。

“ちょっとお兄ちゃん!! マメから蛾が出て来たんだけど!! すっごくキモち悪いからガムテープでぐるぐるに巻いてゴミ箱に捨てたわよ!! もうあんな変なもの買わな
いでよね!! 買ってもいいけど私には絶対に渡さないでよね!!”

彼女のメールはいつも高めなテンションで文字より絵文字の方が多いのだが、一個も絵文字無し。相当グロテスクだったのだろう。そういえばあの日の夜、地方から出て来たいとこにお土産だと言って渡していたのを、ボクはすっかり忘れていた。

ちなみにボクのところにある3箱からはまだ一匹も孵化していない。

春になるのが楽しみ!? だ。