ロックンロールニュース


レギュラーコラム オグラ

[2010年08月03日]
vol.96 荻原魚雷君の話

友人の文筆家、ぎょらい君が二冊目の本を出した。『活字と自活』荻原魚雷/著(本の雑誌社)。日々、古本を読みながら、フリーランスの仕事でいかに食いつなぐか、という貧乏生活が実況中継されているエッセイ。僕のような『いまいちな自分』にとっても味方の一冊である。

『…でもわたしは怠け者が生きられない世の中は、居心地がわるいとおもっている。怠けながら楽しく行きてくことを諦めたくない。』

なんて書いてある。うん、いいこと言うねぇ、大賛成。だけどそんなこと言って呑んでると、女に怒られるぜ。
100803_gyorai.jpg
魚雷君と知り合ったのは十数年前。金のない僕たちは、よく近所の公園で酒盛りをしていた。ある日Sちゃんが魚雷君を連れて来た。魚雷という名前なのに、小さな声でしゃべる静かな印象だった。

しかし、部屋へ遊びに行くようになり驚いた。下宿屋みたいな二階の部屋が、いくつかぶちぬかれていて、あたりいちめん、すべて本、本、本…の恐怖。取り壊しが決まっていて、安く借りられたとかなんとか言っていた。ある女友達の部屋へあがった時も棚いちめん、ブーツ、ブーツ、ブーツの恐怖だったことがあるけど、量でいけばそれ以上の衝撃だった。難しそうな古本にかこまれて、なにか悪いことをたくらんでいるんじゃないかと心配になった。

そのうち、そこは、いつ行ってもいいようなたまり場になり、トントンとあがっていくと誰かがギターを弾いていて、みんな酒ばっかり呑んでいた。魚雷君も迷惑な顔をするでもなく、一緒になって呑んでいた。腹が減ると味噌煮込みうどんなんかを作ってくれて、どうも悪だくみはしていないご様子。気になるといえば、自分の部屋なのにいつもきちんと服を着ていること位。

そういえば、魚雷君はいつも同じ格好をしている。奥さんの話によると、彼のタンスには、同じ服がたくさん入っているらしい。「オバQみたいなんです」と深い表情をみせた。しかし、当人に言わせるとこだわりがあるらしく、襟の形やポケットの位置など、微妙に違うらしい。『色違いで冒険してみた』的なことをいいながらそっくりな服を買ってくるそうだ。そうだったのか、同じ服ではなく「同じような違う服」だったのだ。

「同じような違う服」を着た魚雷君は無口なほうだ。思ったことや感じたことをすぐ口に出すタイプではない。だから文章を書くのかもしれない。思ってることをすぐ言える人は、喋ってスッキリするから書かなくてすむのかも。それにしたって、日々はスッキリすることばかりじゃない。嫌なことのほうが多い位だ。「前向きに」なんて薄っぺらな言葉でごまかさず、しっかりクヨクヨしたいものだ。この本を読むとそんな気持ちになる。

雪が積もった十年程前のある日、僕は例によって昼間からブラブラしていた。魚雷君の部屋の前を通りかかったので、窓へ雪を投げてみた。ガラッと顔が出てきたのか、留守だったのかは忘れちゃったけど、その時書いた、詩とはいえない落書きがノートに残っている。

「雪が積もったある日のこと

本を開いてみると

本の中に友だちが座っていた

静かにお茶を飲んでいる

いろんな漢字にかこまれて

いろんな気持ちにかこまれているのに

友だちは気づいていないようです

そんなとこに座ってないで

雪合戦でもしようじゃないか」

あのとき、雪合戦にいかなかったから、この本が出ただね。「どうにかなった」ではなく「どうにかしてきた」んだと思う。怠けながら楽しく行きてくことを諦めずつらぬいた、尊敬すべき友だち「荻原魚雷」である。箸の持ち方が変テコです。

末筆失礼

100803_katsujitojikatsu.jpg

『活字と自活』荻原魚雷/著(本の雑誌社)税込価格: ¥1,680 ISBN : 978-4-86011-206-6



オグラのヒミツ vol.95 45歳の話 は コチラから。
4コマ漫画 たじゃれアニマル Vol.20 鯉と虫 はコチラから。




reg_icon.jpg


ライブ情報

■9/11(土) 西荻窪CLOP CLOP 03-5370-2381

 『地味な夜』

 出演 / ワタナベマモル 知久寿焼 オグラ
 開場 / 19時  開演 / 19時30分
 前売 / 2,200円

 ※店での予約はできません。 オグラメール予約へお願いします。