[2010年03月25日]
vol.92 卒業、進路の話
春、新しい季節の到来。
今から26年前の春、僕は高校を卒業した。 卒業したが、何の目標もなく、将来は薄ぼんやりして見えるばかり。 勉強ができるわけでもないし、スポーツができるわけでもない。 おまけに親父はアル中完成間近。 このまま地元にいても未来はショボいに決まってる。
結局、就職はせず、缶詰工場で貯めた21万円を手にバンド仲間3人で東京へ出て来た。 なんとなく面白そうだという理由で。
生活に負けて帰ってくるという、お決まりのパターンだけは避けようということで、3人での風呂なし四畳半共同生活が始まった。 初日にまず決めたのは、『自慰行為禁止令』。 手の絵に大きなバツマークを描き、壁に貼った。
生活に負けないように、翌日早速バイトをみつけた。 僕は現場仕事、残りの2人は古紙回収工場。 『今の自分たちには何もないが、輝く未来へ前進だ~!』 と威勢よく出かけていったが、2人は1日で辞め、僕も2日でいかなくなった。
アパートの家賃は1ヶ月25000円。 3で割ると8000円ちょっと。 そんなに慌てて働かなくてもと、ぶらぶらする日々へ前進していった。
それでも、金は極力使わないよう心がけた。 生活に負けては元も子もない。 定食屋へ入っても、必ず半ライスを注文。 近所のパン屋へパンの耳をもらいにも行った。 おばさんが「今時、珍しいわね」と大きな袋にたくさん入れてくれた。 毎日のようにもらいに行ったせいか、ある日パンの耳に値段がついていた。 自炊がいちばん安くつくと知るのは、まだ先の事であった。
とにかく毎日ヒマで、楽器をちょっとさわる以外、やることはなにもない。 友達もいないので、いつも3人で行動していた。
女をたぶらかしに行こうと、夜の歌舞伎町へも出向いた。 ちょっとイカした3人連れがいたので、静岡弁まるだしで 「おねえさんちヒマら?呑みいかねぇ」 と誘ってみると、「あんたっち静岡っしょ!?」 と威嚇された。 静岡弁は標準語だと思いこんでいたので、「なんでわかっただか…」 と、僕らは東京の恐ろしさにわなないた。
ある日、エロ本を大量に拾ったので 『自慰行為禁止令』 をいったん解除しようじゃないかという運びになった。 しかし、部屋は四畳半ひと間、血気さかんな若人3人。 そこで部屋を三分割することにした。
押し入れの襖をはずし、テントのように立てあわせる。 両端にふたり、真ん中の三角形の中にひとり。 当然、密閉感のある真ん中をみんなで争った。 「エロ本を見つけたのは俺だ」 「襖のアイデアは俺だ」 「部屋の名義は俺だ」 と、なかなか決着がつかないので最後はジャンケンで決めた。
生活に負けてはいけないという事で、ここでもティッシュはひとり3枚。 途中でゴワゴワッと取る音が気持ち悪いというので、ジャンケンに勝った者が事前に配布した。 しかし今度は、ページをめくる音が気になるという問題がもちあがり、さらには、先に終わった奴はどうすればいいのかという意見も飛び出した。 僕らは 『爆音で音楽をかける』 『ドア側から「早い者」順に場所を決める』 などして、回を重ねるごとに問題を改善していった。
無意味な日々はさらにつづき、隣家にできた蜂の巣を銀玉鉄砲で攻撃したり、部屋の壁じゅうに絵を描いたりと、誰もがやるような事をして過ごしていたが、お互いだんだん口をきかなくなってくる。 仲が悪くなるというより、誰も喋らなくなるのだ。
結局、新宿JAMで1回ライブをやり、共同生活は破綻した。 ひとりは地元へ戻り、ひとりは行方知れず。 僕は東京へ残り、さらに家賃の安い三畳間へ引っ越した。
ひとりになり、生まれて初めて、あれこれ考えた。 淋しさのあまり曲もできた。 拾った英会話カセットデッキで『友部正人』と『ドアーズ』ばかり聴いていた。 音楽は冷え冷えとした生活に衝動と勇気を与えてくれた。
ある夜、爆音で音楽をかけていると、タチの悪い新聞勧誘がやってきた。 ドアを開けると、チンピラ風の若い男が立っている。 「にーちゃん、新聞とってる?」
その後ろにつるっ禿の大男。…き、来やがったな、でも生活に負けるわけにはいかない。色んなことを言って断ったが、なかなか帰らない。しまいに若いほうが怒鳴りだした。 すると、ずっと黙っていたつるっ禿の大男が、 「おにーちゃん、1ヶ月だけとってやれよ。こいつ怒ると何するかわかんねーからさ」
「……」。 若いほうが脅し、もうひとりがスカすというお約束。
僕がビビって黙っていると、大男が 「ところでお前、さっきから、でかい音で何聴いてんの?」 「…ド、ドアーズだよ」 「…おお、ドアーズか、ドアーズ…いいよなあ」 「ま、まあね…」
ウソつけ知らねえくせに。
あれからずいぶん時がたち、未来は輝いたとはいえないけど、あの時、東京へ来て、やっぱりよかったと思っている。
末筆失礼
ライブ情報
『オグラの単身赴任ツアー 2010春』
■5/22(土) 神戸・新長田「Cafe・Bar Dessin」
出演 / オグラ (ソロワンマン)
開店 / 19:00 開演19:30
チャージ / 予約2,500円 当日3,000円 (共に1ドリンク付)
ご予約 / 20100522@dessin-nagata.info
または078-641-2431(受付は営業日の12:00~16:30)へ
■5/23(日) 京都 まほろば」 075-712-4191
出演 / オグラ、SUNNY SIDE UP
開演 / 19:30
チャージ / 1,500円+order
■5/29(土) 富士宮 BAR ルーツ&フルーツ 0544-22-3454
出演 / オグラ (ソロワンマン)
開店 / 18:30 開演 / 19:30
前売 / 2,500円 当日 / 2,800円
■5/30(日) 沼津 P-STAGE 055-952-4570
出演 / オグラ/(Opening Act有)
開店 / 18:00 開演 / 19:00
料金 / 2,800円 (ドリンク付)
オグラ
(ミュージシャン)
プロフィール
1965年静岡県生まれ。高校生の時、ラジオで聴いた友部正人の歌に驚愕。1985年より「青ジャージ」というバンドで歌い始める。1992年バブル崩壊のあおりをくらい、メジャーデビュー目前にしてポシャる。青ジャージ解散。1993年「800ランプ」結成。インディーズより3枚のアルバム発表。その後、2001年800ランプ活動休止。2002年より自作の「インチキ手廻しオルガン」を廻しながら歌うスタイルでソロ活動開始。2006年2ndCD『オグラBOX 3枚組』(MIDI Creative)発表。
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