ロックンロールニュース


レギュラーコラム オグラ

[2009年03月10日]
vol.81 泣く話

ogura_090310_81.jpg 僕は男のくせによく泣く方だと思う。


 上質の言葉やメロディを聴くと涙があふれるし、あまりにもいいアレンジにふれると熱いものが込み上げてくる。


 先日部屋で、日本アニメ主題歌史上、最高傑作のひとつ『宝島』のコード進行を思い出している時もそうであった。


 ♪ゆくてにはみんなまだ知らない〜♪の「い〜」の部分がAm7なのだ。普通にあてはめるならDでよさそうなのにAm7。(音楽理論はおいといて、ギターで弾くならここはAm7なんだと思う)この不安定でありながら、じわっとしたみごとな調和。このアレンジによって、これから冒険に出て行く不安感をも表現しているに違いない。『よくここをAm7にしたな〜』と思ったらうかつにも涙がこぼれてしまった。ほんとによく出来ている。さらに二番Aメロのオブリ、そしてなによりこの曲のもつ軽快さと力強さ。ほんとにいいメロディだ。僕は泣きながらその場でスタンディングオベーションした。ほんとにした。


 そんな事があるので、人前ではなるべくいい曲を聴かないようにしている。しかし、過去に一度、映画館で大泣きしてしまったことがある。それは音楽ではないのだが…。


 昔、彼女と『海の上のピアニスト』という映画を見にいった。豪華客船の中で生まれて、一度も船を降りなかった天才ピアニストの話。その男が生涯に一度だけ船を降りる決心をする。客の女に恋をして、会いにいこうとするのだ。しかしタラップを降りる途中でなぜか引き返してしまう。最後のシーンで、老朽化したその船が爆破解体されることになるが、男は船から降りない。友達が説得に来るが降りないという。そこで、あの時なぜタラップを引き返したのかという理由が語られる。(昔の記憶なので自信はないが、こんな話だったと思う)。


 なぜ船を降りなかったのか?僕はその理由を聞いてじわっとしてしまった。


 男はタラップの上から、大都会に走る縦横無尽な道を見た。この何十本何百本もある道の中から、ひとつを選べないと言ったのだ。どれを選べばいいんだ、と。『わかるよ〜、なんだかスゴクよくわかるよ〜』僕はいろんな事が胸に渦巻き、涙がとまらなくなった。


 なぜかはよくわからない。涙の訳を言語化しようとしても、本質からどんどん遠ざかってしまうような気がする。あえて言うなら、それはとても現代チックな言い方だったからかもしれない。


 映画が終わりエンドロールが流れてもまだ涙がとまらない。彼女が「どうしたの?」というので「わりい、今ちょっと無理」といい顔をふせていた。人がみんな出たあと、ようやく泣きやみ、ロビーに座ってお茶を飲んだ。


 「感動しちゃって…」というと「そ、そんなに…?」と驚く彼女。「いや、あの降りなかった理由がさぁ…」と言いかけたら、また込み上げそうになったので「ま、とにかく出ようよ」と立ち上がった。


 すると誰もいないはずの館内から、ハンカチで目頭をおさえた浪人生風の男が出て来た。映画が終わって随分たっているというのに。僕は驚きながらも『そうだよなぁ、わかるよ〜、……うっ』とそいつにつられて涙が逆流してきた。ヤバイと思い、すぐ横のトイレに駆け込もうとしたが、そこは非常扉で、ちょうど中から掃除のおばさんが出て来た。どこへいったらいいのかわからず、『えーい、もういいや』と僕はその場でじゃくじゃく泣いたのだった。


末筆失礼(※『宝島』作詞/岩谷時子 作曲、編曲/羽田健太郎 歌/町田よしと)



オグラのヒミツ vol.80『ケータイ写真詩09、10』はコチラから。
4コマ漫画 たじゃれアニマル Vol.20 鯉と虫 はコチラから。




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