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レギュラーコラム オグラ

[2008年10月10日]
vol.75『店番の話』

ogura_081010.jpg 人生とは誠に不思議だ。


 まさか 43歳で雑貨屋の店番をしているとは思わなかった。妻の店ではあるが、当人はリウマチで午前中は体が思うように動かないので、毎日シャッターを開けるのは僕の役目。妻の体調にもよるが、奴は仕入れメールや品出しに忙しいので、ほぼ毎日店番をしている。


 していると、まあ、いろんな人がやってくる。


 開店当初は近所に住む年配の御婦人がけっこう押しよせた。ショウウィンドウに資生堂の古い包装紙(山名文夫デザイン)を置いているので、『まあ、懐かしいわねぇ』といいながら入って来る。店内に並べてある古物を見て「このアルミのお弁当箱持ってたのよ〜。これいつ位のもの?」などと話かけてくる。


 よしきた。僕も今やあきんどのはしくれだ。なるべく愛想よく「そうですねえ、おそらく昭和二十年代のものかと思います。」位の事を言おうとすると、「昭和にじゅ……」のへんでバスッと切られる「いやまあ、でもこれとまったく一緒って訳じゃないんだけど……あたしのはねえ……ここに溝みたいのがあって……(じっ〜と見て)……持ってた。やっぱりこれと同じの持ってたわ。」


 「へえ、そうですか、じゃあ懐かし…」


 「こことは違うけど、こういう物置いてる店、あそこにもあるわよ。えーとねぇ…」


 「この近くですか?」


 「あれ?こっちは何、新品?」


 「そ、そう。おもにヨーロッパの文房具を…」


 「あら何?面白い、こんな所にポスト?」


 「それは店長のアイデアで解体現場から…」


 「へ〜え、ユニーク!なにこれ!中にフクロウが……」


 と、ものすごい切り替え力と一点集中力を発揮してくる。「近くにお住まいですか?」などと聞いた日には、これからどこへ行って、帰りにどこそこのスーパーで買い物をして、という一日のスケジュールを説明しだす。そして、うかがうお宅との人間関係、父の代からの知り合いで、という話から思い出は過去にさかのぼり「そういえばあのお弁当箱は姉が持ってたんだわ」という小感動もまじえつつ、小一時間喋りまくって帰ってゆく。一応ちっちゃなフクロウを買っていったので「ありがとうございました」といいかけると「ありがとうござ…」のへんで、やっぱりもどってきて「あ、思い出した!さっき言ってたお店、東中野だったわ。駅から行くとねぇ、えーと……」と詳細に場所を教えてくれる。


 誰もが孤独なんだな。と思いながら店番をつづける。


 つづけていると、まあ、いろんな人がやってくる。孤独なおじさんもやってくる。50代後半位。一杯ひっかけたような感じで、昼間っからふらついている。「あ〜、疲れた。ちょっと、座らして」といいレジ前のスツールにドカッと腰をおろす。


 「あ〜、金欲しいやぁ、30万か20万……、これなに?」


 「それ、ペーパーナイフ」


 「ペーパーナイフかあ、これじゃ人は刺せないか……?」


 「まあ、殺傷能力はないでしょうねぇ」


 「そーか、だけど心臓めがけてグッと、こう……」


 物騒な事を言ってはいるが、物腰がへんにやわらかい。でも、めんどくさいのでシカトしてると自分からあれこれ話してくる。しばらく聞いていると同郷だという事が判明。静岡のイントネーションがやわらかく聞こえたのかもしれない。そのおじさんは自分も輸入陶器屋をやっていた事があるが、今は土工をやっていて、先週現場で転んで腰を痛めたんだという。もう、遠くへ行ってしまいたいという話から、個人輸入のコツなどを講義していった。


 カップルも入ってくる。声高らかに『見て見て、これかわいい〜』という女は100%何も買わない。ウソみたいだが今の所100%なのだ。あれこれひっかき回し『かわいい〜』を連発して『美術館来たみたい〜』といいながら出て行く。なるほど!じゃあ入場料とろうよ。と提案したが即却下された。妻は最近あの『かわいい〜』が『買わな〜い』に聞こえるそうだ。『ねえ、見てこれ、買わな〜い』『この封筒、買わな〜い』『あ、この下敷き、超買わな〜い』


 今までで、一番変だったのは、しましまの服を着た客だ。店の入り口からジッとこちらを見ているので「いらっしゃいませ」というとビクッとする。気を使い目線をはずすと、そ〜っと入ってきて、下の方の商品をくんくん嗅いでいる。一通り商品を見た後、またジッとこちらを見ている。「どーぞ、ごゆっくり」というとグーっと伸びをして、店を出て行った。


 「また、どうぞ〜。さあ、いらっしゃい、いらっしゃい〜、古物と雑貨が安いよ〜。」カウンターから外を見ていると、道の向こうに海が広がってねえかなぁ、と夢想してしまうのであった。


末筆失礼


ハチマクラhttp://hachimakura.com/



オグラのヒミツ vol.74『ケータイ写真詩07』はコチラから。
4コマ漫画 たじゃれアニマル Vol.20 鯉と虫 はコチラから。




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