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レギュラーコラム オグラ

[2008年10月25日]
vol.76『とどろき豆太郎の話』

ogura_081025_076.jpg こいつは一体なんなのか?


 名前は『とどろき豆太郎』。名付けたのは高校時代の友人、白鳥君である。


1984年、僕は高校のバンド仲間三人で上京。当時僕たちは四畳半一間に三人で住んでいて、働きもせず毎日ブラブラしていた。気持ち悪いものが大好きで、オドロオドロしい音のバンドをやっていた。ある夜、酔っぱらって歩いていると、ゴミ置き場にクマや猿のぬいぐるみと一緒にこの人形が捨てられてい た。僕たちは「なんだよこれ、気持ちわりぃ〜」と笑いながら、この異様に足の長い人形を持ち帰った。


 「なんでこんなに足長いだか?」などとみんなで遊んでいたら、手が組めるようになっていて、膝を抱えることに気がついた。どういう経緯か忘れたが、白鳥が眉毛を描いた。ベビーキャップを脱がしてみると耳がなかったので耳も描いた。何も持ってないのも可愛そうだというので手のひらにウンコも描いた。発見当初は女の子だったがそこで男の子に性転換。豆絞りガラのシャツを着ていたので豆太郎と命名。後に、人々がせつなさと愛おしさを抱く不思議な存在となる
『とどろき豆太郎』が誕生した。


 その後、豆太郎は『青ジャージ』のライブに参加するようになる。いつも原めぐみさんのキーボードの上で膝をかかえていた。たまに忘れたりすると「あれ、今日豆太郎は?」などと人から聞かれ、その存在を確かなものにしていった。愛嬌とインパクトがあるのでライブに来た人々の記憶にも残ったように思う。


 そんな豆太郎だが、毎回ライブに持っていくのも面倒くさくなり、「ワンマンの時だけにしようか?」なんていいながらいつしか忘れ去られ『800ランプ』活動停止とともに原のキーボード保管倉庫で長らく眠ることとなる。


 時は流れに流れて2007年の夏。原の引っ越しパーティーへ行ってみると、真新しい畳の上に豆太郎が座っていた。すっかり忘れていたのと、ずいぶん薄汚れていたのとで、なんとなく可愛そうになり、原が酔っぱらったすきにこっそり誘拐した。家に帰り、洗って脱水機にかけてみたら少し太ってしまった。


 昨年始めたミクシィ上で写真をのせてみると、気になる存在としてふたたび人々の注目を集めはじめた。豆太郎マジックにかかる人が増えてきた。今ではオグラライブにも出演している。一時は原家と小倉家の親権争いにまで発展した。(この様子は、みにくい大人と無垢な豆太郎との対比としていつか絵本にしたいと思う)


 豆太郎は不思議な人形で、見る人の気分によって表情が変わる。ある人にはにっこり微笑んでいるように見え、またある人には苦悩の表情にうつるらしい。当人は異常に無口なのでどんな気持ちでいるのかうかがい知ることは出来ない。写真に撮ってもそのつど顔が変わり、同じ表情を撮るのが難しいといわれている。


 最近はハチマクラの看板小僧として、カウンターの高見に座っている。先日店に来たヨーロッパ系外国人女性客が「コレハ、ナンデスクヮ?」と聞いてきた。 TODOROKI MAMETARO だと教えると「ムァ、メ、タ、ロウ…」と不思議そうな顔をしていた。その後、何度も店を訪れて、ある日ついに「豆太郎ピンバッヂ」を購入していった。スーっと入って来てバッヂだけを買って帰った。という事は朝、起きぬけに『ムァ、メ、タ、ロウ、ヲ買オウ……』と思ったに違いない。彼女も
奴の魔法にかかってしまったのだ。


 豆太郎は何を考えているのだろう?それは誰にもわからない。豆太郎の気持ちは感じとるしかない。なぜなら豆太郎の内面はワタだから……。


末筆失礼

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オグラのヒミツ vol.75『店番の話』はコチラから。
4コマ漫画 たじゃれアニマル Vol.20 鯉と虫 はコチラから。




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[2008年10月10日]
vol.75『店番の話』

ogura_081010.jpg 人生とは誠に不思議だ。


 まさか 43歳で雑貨屋の店番をしているとは思わなかった。妻の店ではあるが、当人はリウマチで午前中は体が思うように動かないので、毎日シャッターを開けるのは僕の役目。妻の体調にもよるが、奴は仕入れメールや品出しに忙しいので、ほぼ毎日店番をしている。


 していると、まあ、いろんな人がやってくる。


 開店当初は近所に住む年配の御婦人がけっこう押しよせた。ショウウィンドウに資生堂の古い包装紙(山名文夫デザイン)を置いているので、『まあ、懐かしいわねぇ』といいながら入って来る。店内に並べてある古物を見て「このアルミのお弁当箱持ってたのよ〜。これいつ位のもの?」などと話かけてくる。


 よしきた。僕も今やあきんどのはしくれだ。なるべく愛想よく「そうですねえ、おそらく昭和二十年代のものかと思います。」位の事を言おうとすると、「昭和にじゅ……」のへんでバスッと切られる「いやまあ、でもこれとまったく一緒って訳じゃないんだけど……あたしのはねえ……ここに溝みたいのがあって……(じっ〜と見て)……持ってた。やっぱりこれと同じの持ってたわ。」


 「へえ、そうですか、じゃあ懐かし…」


 「こことは違うけど、こういう物置いてる店、あそこにもあるわよ。えーとねぇ…」


 「この近くですか?」


 「あれ?こっちは何、新品?」


 「そ、そう。おもにヨーロッパの文房具を…」


 「あら何?面白い、こんな所にポスト?」


 「それは店長のアイデアで解体現場から…」


 「へ〜え、ユニーク!なにこれ!中にフクロウが……」


 と、ものすごい切り替え力と一点集中力を発揮してくる。「近くにお住まいですか?」などと聞いた日には、これからどこへ行って、帰りにどこそこのスーパーで買い物をして、という一日のスケジュールを説明しだす。そして、うかがうお宅との人間関係、父の代からの知り合いで、という話から思い出は過去にさかのぼり「そういえばあのお弁当箱は姉が持ってたんだわ」という小感動もまじえつつ、小一時間喋りまくって帰ってゆく。一応ちっちゃなフクロウを買っていったので「ありがとうございました」といいかけると「ありがとうござ…」のへんで、やっぱりもどってきて「あ、思い出した!さっき言ってたお店、東中野だったわ。駅から行くとねぇ、えーと……」と詳細に場所を教えてくれる。


 誰もが孤独なんだな。と思いながら店番をつづける。


 つづけていると、まあ、いろんな人がやってくる。孤独なおじさんもやってくる。50代後半位。一杯ひっかけたような感じで、昼間っからふらついている。「あ〜、疲れた。ちょっと、座らして」といいレジ前のスツールにドカッと腰をおろす。


 「あ〜、金欲しいやぁ、30万か20万……、これなに?」


 「それ、ペーパーナイフ」


 「ペーパーナイフかあ、これじゃ人は刺せないか……?」


 「まあ、殺傷能力はないでしょうねぇ」


 「そーか、だけど心臓めがけてグッと、こう……」


 物騒な事を言ってはいるが、物腰がへんにやわらかい。でも、めんどくさいのでシカトしてると自分からあれこれ話してくる。しばらく聞いていると同郷だという事が判明。静岡のイントネーションがやわらかく聞こえたのかもしれない。そのおじさんは自分も輸入陶器屋をやっていた事があるが、今は土工をやっていて、先週現場で転んで腰を痛めたんだという。もう、遠くへ行ってしまいたいという話から、個人輸入のコツなどを講義していった。


 カップルも入ってくる。声高らかに『見て見て、これかわいい〜』という女は100%何も買わない。ウソみたいだが今の所100%なのだ。あれこれひっかき回し『かわいい〜』を連発して『美術館来たみたい〜』といいながら出て行く。なるほど!じゃあ入場料とろうよ。と提案したが即却下された。妻は最近あの『かわいい〜』が『買わな〜い』に聞こえるそうだ。『ねえ、見てこれ、買わな〜い』『この封筒、買わな〜い』『あ、この下敷き、超買わな〜い』


 今までで、一番変だったのは、しましまの服を着た客だ。店の入り口からジッとこちらを見ているので「いらっしゃいませ」というとビクッとする。気を使い目線をはずすと、そ〜っと入ってきて、下の方の商品をくんくん嗅いでいる。一通り商品を見た後、またジッとこちらを見ている。「どーぞ、ごゆっくり」というとグーっと伸びをして、店を出て行った。


 「また、どうぞ〜。さあ、いらっしゃい、いらっしゃい〜、古物と雑貨が安いよ〜。」カウンターから外を見ていると、道の向こうに海が広がってねえかなぁ、と夢想してしまうのであった。


末筆失礼


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オグラのヒミツ vol.74『ケータイ写真詩07』はコチラから。
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