ロックンロールニュース


レギュラーコラム オグラ

[2007年06月19日]
vol.55 『素晴らしい手法の話』

070619.jpg 先日、靴を買った。真新しい靴というのはどうも気恥ずかしい。なるべくすぐ汚れるようにと思い『今、履いてきます』と言った。


 女店員は「はい、わかりました〜」と言い、値札をハサミで切った。金を払い終えると、女店員は靴を袋に入れ、テープで閉じた。「あの、履いてくんだけど」と言うと「あっ、失礼しました」とあわててテープをはがした。


 チャップリンのモダンタイムスという映画を思い出す。流れ作業の工場で、ボルトを絞め続ける男。丸いものを見るとなんでも絞めててしまうというあのシーンだ。この女店員も作業が一連の流れで完成しているんだろう。ま、いいか。


 スーパーでカップやきそばをひとつ買った。「袋いいです」と言うと「はい、わかりました」と男子店員。サイフから小銭を探しているスキに、ガサガサッとレジ袋に入れて割り箸までつけた。「あの〜……」と言いかけたがめんどくさいのでそのまま持って出た。


 随分、古い話だが、バンドの頃。満月とメンバー写真を合成したCDジャケットをつくる事になった。デザイナーに「これ、切り抜きじゃなくて自然になじむようにして下さい」とたのむ。「はい、わかりました〜」と言われ待っていると、人物をバッチリ切り抜いたジャケットが仕上がってくる。メンバーの髪の毛が無かった。


 居酒屋で焼酎ボトルをたのみ「あと、ウーロン茶ね、割る用の方」とデキャンタを注文する。店員は「はい、わかりました〜」と言い、泳ぐようにして、のれんの向こうへ消えて行く。しばらくすると、今度は踊るようにして、ドリンクのウーロン茶を運んでくる。


 妻とふたり、近所のステーキハウスで外食。この店は食後にコーヒーが付いてくる。しかし、僕はコーヒーが飲めないので、注文の時「僕、コーヒーいらないから、ひとつでいいよ」と、毎回、断る。店員は「はい、わかりました」と言い、料理を運んでくる。ふたりともだいたい食べ終わったところで、先ほどの店員が奥でコーヒーを入れている、2つな。


 朝、チャイムで起こされるのが嫌なので、宅配便の時間指定は夕方以降にしてもらいたい。事前にくるのがわかってる時は相手側にそのむねを伝える。「夕方以降ですね、わかりました〜」と明るい返事。そして、二日後の朝7時50分にドアをドンドン叩かれる。


 「上(うえ)で領収書下さい」と言うと「はい、わかりました」と言う。金を払いおつりをもらう時「お宛名はいかがいたしましょう?」と聞かれる。


 あげ出したらキリがないが、これ…なぜだろう? 自分はこういう事が人より多いような気がする。最近は歳のせいか、やたらとイライラするし、やっきりする(頭にくる)。しかし怒ったところでこういう事はなくならないだろう。一体どうしたらいいものか?と考えながら、バス停でバスを待っていた時の事……。


「43分が来ないねえ? もう49分だよ」


「だって43分って書いてあんだろう?」


「うん」


「じゃあ、来ないよ」


「……どーゆー事よ?」


 ……と、ここで、素晴らしい手法を発見してしまった。 こ、これだ! これでもう、イライラする事もやっきりする事もなくなるぞ。日々をゆらりと渡っていける。 つまり、こういう具合に……。


 「袋入れないでって言ったたんだろう?」 「そうだよ」 「で、店員は、わかりました。って言ったんだろう」 「うん」 「そいじゃあ、入れるよ」


 「コーヒーはひとつでいいって言ったたんだろう?」 「そうなんだよ」 「で、店員は、わかりました。って言ったんだろうが?」 「うん、言ったんだよ」 「そいじゃあ、2つ持ってくるよ」


 「夕方以降にしてくれって言ったたんだろう?」 「そうなんだよ、朝は嫌だから」 「で、先方はわかりました。って言ったんだろう?」 「うん、夕方以降ですね。って言ったんだよ」 「言ったんだな?」 「言ったんだよ」 「そいじゃ、朝くるよ」


 これは決して悲観論ではない。古典落語から学んだ高級テクニックである。できるかぎりふざけて暮らさなければ、この野暮ったい時代は生きぬけないであろう。


末筆失礼