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レギュラーコラム オグラ

[2007年03月06日]
vol.51 『学生服の話』

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 クローゼットの中へ風が吹き、着ていなかった服に春が来る。


 卒業式と入学シーズン。


 今は昔、中学生の頃、ちょっとした悲劇があった。 新しい学生服を着て、新しい自転車に乗って、新しい友達と三人でどこかへ出掛ける途中のこと。


 自転車でダラダラ蛇行しながら、僕たちはふざけていた。


 谷啓さんが『愛してタムレ』の中で歌う、というかスキャットする、変な喉の芸を真似て、先頭のT君が「ぅごゃ、ぅこぇ」とやれば、つづけてM君と僕も「ぅごゃ、ぅこぇ」。T君が「ぅごゃ、ぅごゃ、ぅごゃ、ぅごゃ、ぅこぇ」とやれば、つづけてM君と僕も「ぅごゃ、ぅごゃ、ぅごゃ、ぅごゃ、ぅこぇ」。


 T君が立ちこぎで「ぅごゃ、」 座って「ぅこぇ」とやれば、つづけて僕らも立ちこぎで「ぅごゃ、」 座って「ぅこぇ」。


 道は緩やかな下り坂になり、T君が立ちこぎで「ぅごゃ……………」 おっ、今度は時間差だな、と思った刹那!


 ゥガ〜〜〜〜〜、ペッ!


 「うあ〜ああああ」とT君の悲鳴。


 道ばたに停まっていた軽トラの窓から、おじさんのタンが飛んできた。そこへ立ちこぎのT君がス〜ッ。慌てて自転車を止め、見ると、T君の上着のすそにぺっとりと巨大なタンがついていた。


 「うあ〜ああああ」と混乱したT君は、慌てふためきタンを袖でぬぐってしまった。タンは双子となり、すそと袖へ泣き別れ、キラリと光り糸を引いた。中学生男子は低能なので、僕とM君は 「おぇ〜っ!!」といいながら心配していた。


 「なんだや ヤイヤイ……(OH MY GOD)」とおじさんが降りてくる。「ぼく、悪ィっけなぁ……(君、悪い事をしたね)」といいながらハンカチを出し、袖のタンを拭きとった。そしてハンカチを裏返し、ツバをペッとつけ、ポンポンと仕上げた。シミをとる要領だ。


 そして、上着のすその方は、片ヒザをつき、念入りに、まずはタン自体を拭きとり、さっきの要領でハンカチにツバをつけ、ポンポンと、これをさらにもう一度繰り返し、ていねいにポンポンポンと……その時、たまりかねたT君が「もう、いいです」といっておじさんを振り払った。


 すると、おじさんは「バカ!」と怒鳴り「こんな立派な詰め襟汚したら、おかあちゃんに申し訳ないぞ」といい、また片ヒザで念入りに、ホストのように優しく、ポンポンポンポンとシミをとり、仕上げた。……かに見えた。


 しかし、完璧主義のおじさんは最後の最後に、学生服自体にペッとツバをかけ、しまいにペロペロ舐めだした。僕とM君はまた「おぇ〜っ!!」といいながら、泣き顔のT君を心配していると、


「おぇ〜っじゃねーら!! 何だおめえっちゃあ? ツレんこんなめにあってるっつうに……(おえ〜っではないでしょう! 何ですか君たちは? 友人がこんなひどいめにあっているというのに)」

と説教されてしまった。


 おお、麗しきあの頃、そして清水弁……。


末筆失礼