header_080729.gif


レギュラーコラム オグラ

[2006年02月02日]
vol.41『雪の話』

 
僕の故郷には雪が降らなかった。
あ、小学校のころ一度、降ったっけか? 
しかし、それも運動場が一瞬、白くなってすぐに溶けてしまったような気がする。 なので東京に来てから雪が積もった時はビックリした。


眠ってる間にこっそりやって来て 目覚めると真っ白けっけ ああ 雪の完全犯罪


という詩をつくったぐらいだ。 積もったのにも驚いたが、その後もっと驚いた。なんというか、積もってから2、3日たつとほとんど溶けてしまうが、電信柱の付け根にすがるような雪が残っている。おまけに泥や排気ガスで汚れっちまって、そのまま
固まっちまうもんだから、東京の町は雪でちらかっている。


雪が降ったことなんか、もう、とっくに忘れっちまってるのに、まだ、そこら中にすがるような雪が……。 しかも人々はそんなこと、気にもせず通り過ぎる……。


あれ? なんでなんにも言わないの? なぜ誰も気にしないんだ? こんな不思議な風景なのに…。 で、この心持ちを友人に話すと『はやく片付けろ、って事か?』と言われてしまう。 そうじゃなくて『ホラ、あんな所にまだ雪が…』 『だから目ざ
わりなんだろう?』 違う違う! 『ホラ、見てみ、まだ、雪が!』なんだよ……。

 なんだったら7月ぐらいまで残っててほしい程だ。 そうすればこの心持ちがわかってもらえるだろう。

何年も前、大雪が積もったある深夜。 僕はヘベレケに酔っぱらって家へ帰っていった。 住宅街はシーンとしていて、サクサクという自分の足音だけが響いている。 急にあるメロディを思い出して、あれ、いい曲なんだよなあ。と思いながら口笛でなぞっていった。 短い曲なので、何度も何度も、くり返し吹きつづけたような気がする。


今思うと、まったく迷惑な野郎だが、その時は、寝静まった国民に口笛を配給しているつもりだった。


豆腐屋の角を曲がると、前の方から犬が走ってきた。それも、単体で。 首輪はしているが鎖もなけりゃ、飼い主もつれてない。 僕は酔っぱらっていたので、すれ違い様に『おお? お前ひとりか?』と言ってみた。 すると『そうです』というような顔をして、こっちを見ている。


なぜこんな深夜に犬が一匹で? 逃げてきたのかな? それとも夜のうちだけ鎖を外してもらってるのかな?なんて思いながらしゃがんでみると、ハアハアしながら寄ってきた。 撫でてやるとシッポをふってヨダレをダラダラたらしている、犬なんて単純なもんだ、ハハハ。 


酔っぱらいながら酔っぱらいの演技をして、あれこれ喋りかけるとおとなしく聞いている。 口をつむってどこか遠くを見ている。 その横顔を見ていると、なんだか知的な感じもしてきて、不思議な気分になり、僕もしばらく黙っていた。


帰ろうと立ち上がると、またハアハアして、ちぎれる程シッポをふっている。ハハハ、じゃあ、遊ぼうか。つって、雪の中、じゃれていたが、ふいにまた、口をつむって遠くを見ている。『なんだよ、それ〜?』って言ったかどうか忘れたが、犬は、そのまま、サクサク行ってしまった。


こうやって書いてみると、いまひとつ伝わらないが、とても不思議な夜だった。そしてこの出来事は、そっくりそのまま『犬と私』という曲になっている。


末筆失礼