header_081001_04.gif


レギュラーコラム オグラ

[2005年06月27日]
vol.34『建築現場の話』

 
先日、サイドビジネスがクビになってしまったので、日雇いに行った。実に10年ぶりの現場だ。新宿区のある一角に通称『ヤマ』と呼ばれるディープスポットがあり、早朝そこへ行きその日の仕事をもらうという、僕のような人間にはありがたい場所である。


十数年前もよくここへ来ていた。十数年前といえばバブル経済のピークであり、無数のビルディングが空へ伸びていった。「バブルなんて庶民にはピンとこなかった」なんていう人もいるが、僕は一番低い所でそれを体感した。

一日行くと何千円だったのが何万円にハネ上がり、10時と3時の一服には缶ジュースが振る舞われ、アジアの人達も大勢いて、仕事にあぶれるなんて事はまずなかった。しかし、徐々に現場の数は減り、外国人は使われなくなり、ギャラもどんどん下がった。後で思った事だが、『はじけたんだなぁ』って感じだ。


その頃はミュージシャンの友人も何人か来ていた。僕たちは初め素人くさい格好をしていたが、地下足袋、ラチェット、バン線カッターなどを揃え、いっぱしの土工さんになっていった。ジャージみたいのを履いて行くと「お前、そんなんじゃ仕事んなんねーぞ」って言われるし、なによりもニッカに地下足袋はカッコイイからね。


昼休みにオフィス街を『力王(りきおう)』の足袋で歩いてると、なんだか強くなったような気がする。OLがみんなイイ女に見える。地球を踏みしめ歩いてる、足の裏に 小石を感じる、弁当の中に田んぼが見えるぜ、ガハハハ! アライブ! アライブ!


今、気付いたけど、底のうすいクツが好きなのはきっとこのせいだな。


現場のオジサンたちはすぐ『○○が一番いい』と言う印象がある。昼に麦茶を飲めば『やっぱ麦茶が一番いいわ』というし、帰りに石鹸で手と顔を洗ってると『やっぱ石鹸が一番いいわ』という。しかもひとりごとのように言うので誰も反応しない。するともう一度言ったりするのだ。一体なににくらべて一番なのか不思議に思っていた。

しかし、あんなに賑わっていた『ヤマ』も孤城落日。今ではワンボックスカーが5、6 台しか止まってなくて、手配師のおじさんも極端に少ない。その日はどうにか仕事にありつけたが、待っているあいだじゅう、不安と孤独で『やっぱり、帰ろうかなあ』と弱気になる。そして、あんなに沢山いた日雇い作業員たちはいったいどこへいってしまったんだろう?…。


10年のブランクは想像以上にキツかった。体は全然動かないし、足場を歩くのが恐く なっていた。いくら水を飲んでもスグのどが乾き、朦朧とした意識の中、午前中だけで10年分の汗をかいたような気がする。午後は比較的、楽な作業にまわされ、少しだ けカンをとりもどし、考えながら動けるようになった。


仕事が終わると朝の弱気はどこへやら、変に充実した気分になり、『ちょ〜〜〜っと だけ行こうかな』とせっかく稼いだその日の金を半分以上呑んでしまった…。


末筆失礼


【感謝】えー、暖かい励ましのメールを送ってくれる皆さん、どうもありがとうございます。日毎夜毎、励まされております。ライブにも是非。