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リリー・フランキー

[2003年10月02日]
シナモン日記 vol.5

 人に接することは難しい。
疲れると言ってしまえば愛想がないし、面倒だと言えば元も子もないが、なにかと上手くいかないものである。
 長く同じ場所に暮らしていると、やみくもに知り合いだけは増えていくものだから、端から見れば社交的にも見えるらしいが、まるでそうではない。出無精で、愛想なしで、人見知りもする。
 ならば、ひとりでいることが好きなのかといえば、それに関しては更にダメで、飯、飲み、遊び、何もひとりでいることが出来ず、オナニー以外のことはだいたい、わらわらとした中にいることが多い。
 このままではイカンなと、3年前、ひとりになる訓練をするため沖縄にひとり旅をしてみたものの、ひとりの沖縄はアゴが外れるくらいつまらなかった。
 浜辺に座ってオリオンビールを飲む。セルリアンブルーの空に澄んだ海。沖の方に浮かぶ岩山を眺めながらふと、思う。「あの岩、犬みたいなかたちしてるなぁ…。くすくす…」
 波、ざざざぁぁー。
ああ!本当につまらん!それを発表する人がいないのである。
 ひとり旅ができる人、すごいと思った。


 文章を書く仕事は、まったくひとりで完結するもののように思うかもしれないが、案外、人に会わなければいけないものである。
 打ち合わせ、取材、対談をしたり、撮影もしなければいけないこともある。初対面、一期一会の連続は、気を使い、消耗し、消化不良をおこす。こちらは態度も愛想もいい方ではないので、気を悪くしたのではないだろうか?口も悪く、口臭も刺激的なので、傷ついてはいないだろうか?
 誰にでも好かれたいとは思わないし、時には、こいつには嫌われてもいい、いや、むしろ、嫌われないと気がおさまらない、このバカと思うこともあるが、いずれにしても、人に会うことと、喋ることは、なによりも神経と体力を消耗するものだ。 そんな中で、トークショーやサイン会をすることがある。
 自分の本を買ってくれる人や、わざわざイベントに足を運んでくれる人がいることに、今さらながら、自分で驚き、恐縮する。これは何度やっても、同じ感覚のまま、不思議な気がする。
 先日の8月9日。野球の日。新宿のロフトプラスワンで、もう7、8年やっている「スナック・リリー」というイベントをやった。 EXTRA14。今まで40回はやっていると思うが、一度、もうやめようと思い、終了したのだけど、あと一回、あと一回とジジイの小便のように終わりそうで終わらず、EXTRAが14回も続いてしまった。
 この日は7時から開演だったのだけど、こちらが到着したのは9時。もう2時間も遅刻しているのだが、11時に行ったこともある。
外には入場できなかった人が、行くあてもなく漂っていて、聞けば100人近い人が入れずに帰ってしまったそうだ。関西や遠方からも来てくれた人もいたみたいで、本当に申し訳ない。なんとか、やりかたを考えなければいけない。
 このイベントは、なるべく来てくれた人と話す機会を持とうとしているので、だらだらと時間は過ぎる。オールナイトで朝の5時まで喋り、それからサインを4時間。結局、2時間遅刻したにもかかわらず、12時間喋り続け、朝の9時までやっていた。
 いろんな人の話を聞いているのは楽しいので、あっという間に時間は過ぎるが、だらだらと時間ばかり費やしてしまうのは、せっかく来てくれたことの感謝が、長い時間やることでしか見当たらないのであり、その中でも、あぁ、さっきの人、少しきついこと言い過ぎたかなとか、チンコ丸出しの人が出て来てビックリしなかったかな?とか、いろんなことを考える。
 まぁ、肉体的よりも、そういうことを考えることで、疲れる。このイベントをやめようと思ったことは何度もあるけど、ここで知り合った人、初めて会う人との時間は、他では得れないかけがえのないものだったりするから、まだ、やっているのかもしれない。


 この間の「スナックリリー」に来てくれた方、ありがとう。そして、入れなかった人、ごめん。なんとかします。そして、またいつか、なにかで会うかもしれない人、また、その時に。
 人に接することは面倒で、疲れるけれど、それでも会いたいと思ううちは、仕方がない。会って楽しいだけの時間よりも、少し苦しいくらいの方が、人間、厚かましくならなくていいかもしれない。